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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
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森を読むもの


第二話を読んでいただきありがとうございます!


今回は試験開始。

少し変わった主人公・ザインの戦い方や考え方を楽しんでいただけたら嬉しいです。


 試験開始の合図が森へ響いた。


「始め!」


 その一声で、受験者たちは一斉に駆け出す。


「急げ!」


「十人しか受からねぇんだ!」


「置いていくぞ!」


 土煙を巻き上げながら、人影は次々と森の奥へ消えていった。


 そんな中――


「……。」


 一人だけ歩いていた。


 ザインは焦る様子もなく森へ入り、しゃがみ込む。


 土を指先でなぞる。


 踏み潰された草。


 折れた枝。


 幾重にも重なる足跡。


「みんな、こっちか。」


 しばらく眺めたあと、


「じゃ、やめよ。」


 そう呟いて獣道へ入った。


 人が集まる場所は争いになる。


 争いになれば時間も体力も使う。


 なら、最初から避ければいい。


 それだけのことだった。



 木漏れ日が揺れる森を、ザインはのんびり歩く。


 鳥の鳴き声。


 風に揺れる葉の音。


 遠くから聞こえる川のせせらぎ。


「あっちか。」


 水音を頼りに川へ向かう。


 顔を洗い、喉を潤し、革袋に水を汲む。


「さて。」


 地図を広げる。


 目的地は記されていない。


 描かれているのは山や川、森の地形だけ。


「高いとこなら、何か見えるかな。」


 地図をしまい、また歩き出す。


 急ぐ理由はない。


 目的地は逃げないのだから。



 ガサッ。


 茂みが揺れ、三人の受験者が姿を現した。


「あいつだ!」


「魔法ゼロの!」


「運がいいな。」


 三人はザインを囲み、剣を抜く。


「荷物置いてけ。」


「やだ。」


「あ?」


「聞こえなかった?」


「聞こえたよ。」


 ザインは首を傾げる。


「でも、やだ。」


「三対一だぞ!」


 ザインは少しだけ考えるように顎へ手を当てた。


「そうねぇ……。」


 三人が笑う。


「今さら怖くなったか?」


「んー……。」


「どうしちゃおっかな〜。」


「は?」


「全員まとめて?」


「一人ずつ?」


「どっちが早いかな。」


「舐めやがって!」


 三人が同時に飛び出した。


 一人目。


 振り下ろされた剣を半歩でかわす。


 柄で鳩尾を打ち抜く。


「ぐっ……!」


 そのまま崩れ落ちた。


 二人目。


 横薙ぎを受け流し、峰で首筋を叩く。


 鈍い音とともに倒れる。


 三人目。


 慌てて詠唱を始める。


「《ファ――」


「遅い。」


 踏み込み。


 腹へ蹴りを叩き込む。


 少年は木へ激突し、そのまま動かなくなった。


「んー。」


 三人を見回し、


「一人ずつの方が早かったか。」


 と小さく笑った。



 三人を一本の木へ縛り付ける。


 しばらくして、一人が目を覚ました。


「くそっ……!」


 ザインはしゃがみ込む。


「ちょっと質問いいかな。」


「誰が答えるか!」


「そっか。」


 立ち上がり、そのまま歩き出す。


「お、おい!」


「待て!」


 ザインは振り返る。


「ん?」


「このまま放置する気か!」


「うん。」


「ふざけんな!」


 ザインは不思議そうに首を傾げた。


「襲ってきたの、そっちなのに偉そうにしてんじゃねーよ。」


「……!」


「待て!」


「話す!」


 ザインは戻ってくる。


「目的地、どっち?」


「西だ!」


「ふーん。」


「他は?」


「炎をぶっ放す女がいた!」


「へぇ。」


「そんだけ?」


「あ、あと……でっかい斧持った奴もいた!」


「へぇ。」


「もうない!」


「ありがと。」


 ザインは立ち上がる。


「お、おい!」


「縄ほどけ!」


「じゃね〜。」


 ひらひらと手を振り、そのまま歩き出す。


「おい! 待てぇぇぇ!」


 叫び声だけが森に響いた。



 歩き始めてしばらく。


 茂みから灰狼が二匹飛び出した。


 ザインは剣を抜く。


 一閃。


 一匹目の首が宙を舞う。


 二匹目が牙を剥く。


 踏み込み。


 喉を貫く。


 灰狼は力なく倒れた。


「お昼にしよ。」


 慣れた手つきで解体を始める。


 皮を剥ぎ、肉を切り分ける。


 枝へ刺し、焚き火でじっくり焼く。


 脂が炎へ落ち、香ばしい匂いが森へ広がる。


「いただきます。」


 一口。


「……うま。」


 肉を頬張った、その時だった。


 ――ドォォォォォン!!


 森全体が震えた。


 驚いた鳥たちが一斉に飛び立つ。


 ザインは焼いていた肉を持つ手を止め、ゆっくりと顔を上げる。


 森の向こう。


 一本の火柱が空へ突き刺さっていた。


 燃え上がる炎は木々よりも高く、遠く離れたここからでもはっきりと見える。


「おぉ……派手だなぁ。」


 思わず感心したように声が漏れる。


「あんな戦い方もあるんだ。」


 少しだけ興味が湧いた。


「ちょっと見に行こ。」


 残った肉を布で包み、焚き火へ土をかけて火を消す。


 剣を腰へ差し直し、近くの木へ軽く飛び乗る。


 枝から枝へ。


 森を知り尽くした獣のように、迷いなく駆けていく。


 その先で待つ出会いが、自分の試験を大きく変えることを、ザインはまだ知らなかった。

第二話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


ザインの性格はいかがでしたでしょうか?

次回はいよいよ、火柱の先で新たな出会いが待っています。


「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、

ブックマークや★★★★★で応援していただけると、とても励みになります!


次回もよろしくお願いします!

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