森を読むもの
第二話を読んでいただきありがとうございます!
今回は試験開始。
少し変わった主人公・ザインの戦い方や考え方を楽しんでいただけたら嬉しいです。
森の奥へ、試験開始の合図が響き渡った。
「始め!」
その一声を合図に、受験者たちが一斉に駆け出していく。
「急げ!」
「十人しか受からねぇんだ!」
「置いていくぞ!」
怒声にも似た掛け声が飛び交い、土煙を巻き上げながら、次々と人影が森の奥へと消えていった。
そんな喧騒の中――
「……」
一人だけ、歩いている少年がいた。
ザインは焦る様子もなく森へと足を踏み入れると、その場にしゃがみ込む。指先で土をなぞり、踏み潰された草や折れた枝、幾重にも重なった足跡を静かに見つめた。
「みんな、こっちか」
しばらく地面を眺めたあと、
「じゃ、やめよ」
そう呟いて、獣道の方へと進路を変える。
人が集まる場所は、いずれ争いになる。争いになれば、時間も体力も無駄に費やすことになる。ならば、最初から関わらなければいい。ザインにとっては、それだけの単純な理屈だった。
◇
木漏れ日が揺れる森を、ザインはのんびりとした足取りで歩いていく。
鳥の鳴き声。風に揺れる葉ずれの音。遠くから微かに聞こえてくる川のせせらぎ。
「あっちか」
水音を頼りに川へと向かう。顔を洗い、喉を潤し、革袋いっぱいに水を汲む。
「さて」
地図を広げてみるが、目的地らしきものは記されていない。描かれているのは、山や川、森の地形だけだ。
「高いとこなら、何か見えるかな」
地図を仕舞い、また歩き出す。急ぐ理由はどこにもない。目的地は、逃げていくわけではないのだから。
◇
ガサッ。
茂みが揺れ、三人の受験者が姿を現した。
「あいつだ!」
「魔法ゼロの!」
「運がいいな」
三人はザインを取り囲むと、それぞれ剣を抜いた。
「荷物置いてけ」
「やだ」
「あ?」
「聞こえなかった?」
「聞こえたよ」
ザインは首を傾げる。
「でも、やだ」
「三対一だぞ!」
ザインは少し考えるように顎に手を当てた。
「そうねぇ……」
三人が笑う。
「今さら怖くなったか?」
「んー……」
「どうしちゃおっかな〜」
「は?」
「全員まとめて?」
「一人ずつ?」
「どっちが早いかな」
「舐めやがって!」
三人が同時に飛びかかってきた。
一人目。振り下ろされた剣を半歩でかわし、柄で鳩尾を打ち抜く。
「ぐっ……!」
男はそのまま崩れ落ちた。
二人目。横薙ぎの一撃を受け流し、峰で首筋を叩く。鈍い音とともに、二人目も地面に沈んだ。
三人目は慌てて詠唱を始める。
「《ファ――」
「遅い」
ザインが踏み込む。腹へ蹴りを叩き込むと、少年の身体は勢いよく木へ叩きつけられ、そのまま動かなくなった。
「んー」
三人を見回し、
「一人ずつの方が早かったか」
と小さく笑った。
◇
三人を一本の木へ縛り付ける。しばらくして、そのうちの一人が目を覚ました。
「くそっ……!」
ザインはその前にしゃがみ込む。
「ちょっと質問いいかな」
「誰が答えるか!」
「そっか」
あっさりと立ち上がり、そのまま歩き出す。
「お、おい!」
「待て!」
ザインが振り返る。
「ん?」
「このまま放置する気か!」
「うん」
「ふざけんな!」
ザインは不思議そうに首を傾げた。
「襲ってきたの、そっちなのに偉そうにしてんじゃねーよ」
「……!」
「待て!」
「話す!」
ザインは戻ってくる。
「目的地、どっち?」
「西だ!」
「ふーん」
「他は?」
「炎をぶっ放す女がいた!」
「へぇ」
「そんだけ?」
「あ、あと……でっかい斧持った奴もいた!」
「へぇ」
「もうない!」
「ありがと」
ザインが立ち上がる。
「お、おい!」
「縄ほどけ!」
「じゃね〜」
ひらひらと手を振り、そのまま歩き去っていく。
「おい! 待てぇぇぇ!」
叫び声だけが、いつまでも森に響いていた。
◇
しばらく歩いていると、茂みから灰狼が二匹飛び出してきた。
ザインは剣を抜く。
一閃。一匹目の首が宙を舞う。
二匹目が牙を剥いて飛びかかってくるのを、踏み込みながら喉を貫いて仕留めた。灰狼は力なく地面に倒れる。
「お昼にしよ」
慣れた手つきで解体を始める。皮を剥ぎ、肉を切り分け、枝に刺して焚き火でじっくりと焼いていく。脂が炎に落ちるたび、香ばしい匂いが森いっぱいに広がった。
「いただきます」
一口。
「……うま」
肉を頬張った、その瞬間だった。
――ドォォォォォン!!
森全体が震えた。驚いた鳥たちが一斉に飛び立っていく。
ザインは肉を持つ手を止め、ゆっくりと顔を上げた。
森の向こう、一本の火柱が空へ突き刺さっている。燃え上がる炎は木々よりも高く、遠く離れたこの場所からでもはっきりと見えるほどだった。
「おぉ……派手だなぁ」
思わず感心したような声が漏れる。
「あんな戦い方もあるんだ」
少しだけ、興味が湧いた。
「ちょっと見に行こ」
残った肉を布で包み、焚き火に土をかけて消す。剣を腰に差し直すと、近くの木へ軽く飛び乗った。
枝から枝へ――森を知り尽くした獣のように、迷いのない動きで駆けていく。
その先で待っている出会いが、自分の試験を大きく変えることになるとは、ザインはまだ知らなかった。
第二話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
ザインの性格はいかがでしたでしょうか?
次回はいよいよ、火柱の先で新たな出会いが待っています。
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次回もよろしくお願いします!




