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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
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剣しか持たない少年

初めまして。


この作品を見つけていただき、ありがとうございます。


少しでも「続きが気になる」と思っていただけたら嬉しいです。


それでは、お楽しみください。


 刃が閃いた。


 灰狼の首筋を正確に捉えた一撃。


 魔物は低く唸りながら数歩よろめき、そのまま地面へ崩れ落ちた。


「よし。」


 少年は剣を軽く振り、付いた血を払う。


 腰から解体用のナイフを抜くと、迷いなく灰狼の身体へ刃を入れた。


 皮を剥ぎ、牙を抜き、肉を切り分ける。


 手際に一切の無駄はない。


 それは何百回、何千回と繰り返してきた動きだった。


 牙は袋へ。


 皮は丸めて背負い袋へ。


 肉は今日の夕食用と保存用に分ける。


 使わない部分は洞窟の奥へ運び、岩陰へ置いた。


 やがて他の魔物や小動物が食べるだろう。


 命は無駄にしない。


 それが父から教わった狩人の流儀だった。


「帰るか。」


 洞窟を出ると、朝日が森を照らしていた。


 木々の隙間から見える小さな村。


 ここがザインの故郷だった。



「また洞窟か。」


 村へ戻る途中、薪を割っていた老人が笑う。


「うん。」


「今日は何を獲った。」


「灰狼。」


「朝からか?」


「朝だから。」


「はっはっは!」


 老人は豪快に笑った。


「お前、本当に十六か?」


「たぶん。」


「たぶんってなんだ。」


 ザインも少しだけ笑う。


 村人たちはみんなこんな調子だった。


 必要以上に干渉はしない。


 だが、放ってもおかない。


 六年前から、ずっと。



 家へ戻る。


 木造の小さな家。


 父と暮らしていた家。


 今は一人。


 荷物を降ろし、灰狼の肉を焼く。


 味付けは塩だけ。


 焼き上がる香りが部屋いっぱいに広がる。


 皿へ盛り付け、椅子へ座った。


 両手を合わせる。


「いただきます。」


 一口。


 噛むたびに肉汁が広がる。


「……うまい。」


 父は言っていた。


 “いただきます”は料理を作った人だけじゃない。


 命をくれた相手へ言う言葉だ、と。


 ザインは最後の一切れまで食べ切ると、皿を洗い、荷物を整理した。


 その視線が部屋の隅で止まる。


 一振りの剣。


 使い込まれた長剣だった。


 六年前。


 父はその剣だけを残して姿を消した。


 そして、一通の手紙。


 何度も読んだ文字。


十六歳になったら王都へ行け。


ギルドへ入れ。


世界のために戦え。


人のために戦え。


……そして、私のために戦え。


「結局、最後まで意味分かんなかったな。」


 ザインは苦笑し、手紙を丁寧に畳んで懐へしまう。


 父はもういない。


 母の顔は知らない。


 帰ってくる人もいない。


 それでも、この家は自分の帰る場所だった。


 剣を腰へ差す。


 荷物を背負う。


 戸を開けた。


「行ってきます。」


 返事はない。


 けれど、それでよかった。



 王都。


 高い城壁。


 石畳の大通り。


 行き交う人々。


「すげぇ……。」


 村とは比べものにならない景色だった。


 少し歩くと、一際大きな建物が見えてくる。


 王国冒険者ギルド。


 入口には同年代の若者たちが列を作っていた。


「次の方。」


 受付に呼ばれ、ザインは木札を差し出す。


 受付嬢は木札へ目を通す。


「ザインさんね。」


 さらさらと書類へ名前を書き込む。


「じゃあ、魔力測定をするので、この水晶に手を置いてください。」


「はい。」


 ザインは言われるまま手を置いた。


 ……。


 水晶は何の反応も示さない。


 受付嬢が首を傾げる。


「もう一度お願いします。」


 再び手を置く。


 やはり何も起きない。


 近くにいた試験官が前へ出た。


 水晶を確認し、小さく息を吐く。


「……魔素反応ゼロ。」


 その言葉に周囲がざわついた。


「ゼロ?」


「そんな奴いるのか?」


「魔法使えねぇじゃん。」


 ひそひそと笑い声が広がる。


 受付嬢も少し驚いた表情でザインを見る。


「本当に……?」


「昔からです。」


「それで試験を受けるんですか?」


「受けます。」


 迷いのない返事だった。


 受付嬢は数秒だけザインを見つめる。


 やがて苦笑して木札を返した。


「分かりました。」


「……まぁ。」


「死んでも恨まないでくださいね?」


 冗談めかした口調だった。


 ザインは木札を受け取る。


「死にません。」


 その一言だけ残して歩き出す。


 受付嬢はその背中を見送り、小さく肩をすくめた。


「毎年いるんだよねぇ……ああいう子。」



 やがて受験者全員が集められた。


 百名を超える若者たち。


 試験官が森の地図を掲げる。


「これより、ギルド入団試験を開始する。」


 場の空気が引き締まる。


「試験期間は五日。」


「この森を突破し、指定地点へ到着した者から十名のみを合格とする。」


 ざわめきが起こる。


「なお。」


 試験官は辺りを見渡した。


「受験者同士の戦闘は禁止しない。」


 その一言で、空気が変わる。


 互いを値踏みするような視線。


 緊張。


 警戒。


 殺気。


 しかしザインだけは、静かに森を眺めていた。


(……魔物、多そうだな。)


 そんなことを考えていた。


 試験開始の鐘が鳴る。


 一斉に受験者たちが駆け出す中、ザインはいつも通りの足取りで森へと踏み込んだ。


 この森で出会う少女が、自分の運命を変えることになるとは、まだ知らない。

第一話を読んでいただき、ありがとうございました!


ここからギルド試験が始まり、ザインの旅も本格的に動き出します。


「面白そう」「続きを読んでみたい」と思っていただけたら、ブックマークや★★★★★で応援していただけると、今後の執筆の励みになります!


次回もよろしくお願いします!

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