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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
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14/65

深層の主

落下の末、辿り着いたのは地図にも載っていない大洞窟の深層。


さらに落下の衝撃でノアの杖は折れ、三人は万全とは言えない状態に。


それでも村人たちの魔力を追い、ザインたちはさらに奥へと進んでいく。


そしてその先で待ち受けていたのは――。


 地図にも載っていない、大洞窟の深層。


 三人はイリスの炎を頼りに、暗闇の中を進んでいた。


「……。」


 先頭を歩くザインが、足を止める。


「どうしたの?」


 イリスが尋ねた。


「いや」


 ザインは少し先の地面を見る。


「何か落ちてる」


 三人が近づく。


 そこには。


 一本の杖が落ちていた。


「……あ」


 ノアが声を漏らす。


「僕の……」


 落下した時に手放したのだろう。


 ノアは急いで駆け寄った。


「よかった……」


 拾い上げようとして。


 止まる。


「……。」


「ノア?」


 ザインが覗き込む。


 杖は。


 中央から大きく折れていた。


「……嘘」


 ノアは二つに分かれた杖を拾い上げた。


 落下の衝撃だろう。


 魔力を通すために組み込まれていた術式も、完全に断たれている。


「使えない?」


 ザインが聞く。


「……多分」


 ノアは杖を握った。


 魔力を流してみる。


 だが。


「っ……」


 集まった魔力が。


 すぐに霧散した。


「駄目です」


 ノアが小さく息を吐く。


「魔力を上手く収束できません」


 イリスが首を傾げる。


「杖がないと魔法を使えないの?」


「使えないわけでは……ないです」


 ノアは折れた杖を見る。


「でも、僕はずっと杖を媒介にして魔力を制御してきました。詠唱だけで魔力を完全に制御するのは……」


「できない?」


「……はい」


「そう」


 イリスはそれだけ言った。


 そして歩き出す。


「じゃあ帰ったら練習ね」


「……え?」


「杖なしで魔法を使う練習」


 ノアが目を瞬く。


「いや、そんな簡単に……」


「簡単なんて言ってないわ」


 イリスが振り返る。


「でも、できるようになった方がいいでしょう?」


「……。」


 ノアはイリスの手を見る。


 杖など持っていない。


 それでも。


 イリスは当たり前のように魔法を使う。


「魔法は杖から出てるわけじゃないわ」


 イリスが言った。


「あなたの魔力なんだから」


「……。」


「まあ」


 ザインが口を挟む。


「帰れたらね」


「縁起でもないこと言わないでくれる?」


「だから帰るために進んでるんでしょ」


「分かってるわよ」


 ノアは折れた杖を見る。


 少し迷って。


 鞄へしまった。


「……行きましょう」


 三人は再び歩き始めた。


     ◇


 深層は。


 上層とは明らかに違っていた。


「……広いね」


 ザインが呟く。


 天井が高い。


 イリスの炎でも。


 上まで照らすことができない。


 通路というより。


 巨大な地下空間だった。


 所々に巨大な岩柱が伸び。


 地面には見たことのない植物が生えている。


「この辺りは完全に未調査なのかしら」


「分かりません」


 ノアが答える。


「少なくとも、僕が持っている地図にはありません」


「地図が使えないのは面倒ね」


「でも」


 ザインが前を見る。


「ノアは村の人たちの魔力を追えるんでしょ?」


「……はい」


 ノアは意識を集中させる。


 杖は必要ない。


 魔力を外へ放つ魔法とは違う。


 周囲の魔力を感じ取るだけなら。


「まだあります」


「方向は?」


「あっちです」


 ノアが指差す。


 暗闇の先。


「じゃあ行こう」


 三人は進む。


 しばらくして。


 ザインが再び足を止めた。


「……いる」


 剣を抜く。


 イリスも構える。


「どこ?」


「右」


 岩柱の陰。


 何かが動く。


 イリスが炎を向ける。


 光が届いた。


「……また?」


 現れたのは。


 獣型の魔物。


 だが。


 今まで見たものよりも。


 さらに大きい。


「ノア」


「……知っています」


 ノアが魔物を見る。


「黒牙豹です」


「強い?」


「本来なら、中級程度の冒険者が複数人で討伐する魔物です」


「本来なら?」


「……。」


 ノアが魔力を探る。


 すぐに。


 顔をしかめた。


「やっぱりあります」


「あの魔力ね」


 イリスが言う。


「はい」


 嫌な魔力。


 上層で遭遇した魔物たちと。


 同じ。


 だが。


「……濃い」


「何?」


「今までの個体より、かなり濃いです」


 ザインが剣を構える。


「じゃあ」


 黒牙豹が身体を沈める。


「かなり強いと思った方がよさそうだね」


 次の瞬間。


 消えた。


「――っ!」


 ザインが剣を横へ振る。


 ガキンッ!


 何もなかったはずの場所で。


 剣と爪が衝突した。


「速っ……!」


 ザインの身体が押される。


 黒牙豹が前脚を振り抜く。


 ザインが身を屈める。


 頭上を爪が通過。


「ザイン!」


 イリスの炎が飛ぶ。


 黒牙豹が跳んだ。


 岩柱へ着地。


 そのまま。


 壁を蹴る。


「上!」


 ザインが振り向く。


 黒牙豹が頭上から襲い掛かる。


「――っ!」


 剣で受ける。


 衝撃。


 ザインの膝が沈んだ。


「重い……!」


「ザインさん!」


 ノアが杖へ手を伸ばす。


「――我が魔力よ……」


 止まった。


 杖は。


 ない。


「……っ」


 それでも。


 手をザインへ向ける。


「我が意に従い、彼の者へ――」


 魔力を集める。


 手の中へ。


 集まれ。


 集まれ。


「――力を!」


 魔力が。


 広がる。


「……え?」


 散った。


 何も起こらない。


「くそ……!」


 もう一度。


「我が――」


「ノア!」


「!」


 ザインが黒牙豹を蹴り飛ばす。


「下がって!」


「でも!」


「大丈夫!」


 ザインが剣を構える。


「こっちは二人いる!」


「……。」


 ノアが歯を食いしばる。


 何もできない。


「イリス!」


「分かってる!」


 炎が地面を走る。


 黒牙豹の進路を塞ぐ。


 黒牙豹が跳ぶ。


 ザインが追う。


「そっち!」


 イリスが炎を放つ。


 黒牙豹が避ける。


 その先。


 ザインがいる。


「――っ!」


 剣。


 黒牙豹の身体を斬り裂く。


「グァァァッ!」


 だが。


 浅い。


「硬い!」


「もう一発!」


 イリスの炎。


 ザインが下がる。


 爆発。


 黒牙豹の身体が炎に包まれる。


「グルァァァァッ!」


 それでも。


 飛び出してくる。


「しつこい!」


 ザインが避ける。


 爪が頬を掠めた。


「ザイン!」


「大丈夫!」


 ザインが地面を蹴る。


 黒牙豹も。


 ザインへ飛ぶ。


 正面。


 ザインは剣を構えた。


 そして。


 直前。


 身体を横へ。


 黒牙豹の爪が空を切る。


 ザインは。


 その懐へ潜り込んだ。


「――そこ!」


 剣を。


 下から振り上げる。


 刃が。


 黒牙豹の腹部を深く斬り裂いた。


「グ――」


 そのまま。


 ザインは身体を回す。


 二撃目。


 首へ。


 一閃。


 黒牙豹の巨体が地面へ落ちた。


「……。」


 ザインは剣を構えたまま。


 数秒待つ。


 動かない。


「……終わった」


 剣を下ろす。


「手間取ったわね」


 イリスが近づく。


「ノアの援護がないからね」


「……。」


 ノアが俯いた。


「ごめんなさい」


「え?」


 ザインが振り返る。


「僕が援護できていれば、もっと楽に倒せたはずです」


「なんで謝るの?」


「でも……」


「杖が折れたのはノアのせいじゃないでしょ」


「……。」


 イリスも近づく。


「それに」


 ノアを見る。


「いきなり杖なしで成功するなら、誰も苦労しないわ」


「イリスさん……」


「魔力を集めるところまでは出来てた」


「……え?」


「最後に制御を失ってるだけ」


 イリスは自分の手を見る。


「杖は魔力を整えるための道具よ。今まで杖がやってくれていたことを、自分でやればいい」


「そんな簡単に……」


「だから」


 イリスが言う。


「簡単だとは言ってないでしょう?」


「……。」


 ザインが少し笑う。


「帰ったら特訓だね」


「ザインさんまで……」


「その前に帰らないとだけど」


「それ今言う必要あります?」


「あるよ」


「ないです」


 イリスが即答した。


「……。」


 三人の間に。


 少しだけ。


 いつもの空気が戻った。


     ◇


 さらに奥へ。


 深く。


 深く。


 三人は進んだ。


 途中。


 何度か魔物と遭遇した。


 そのどれもが。


 異常な魔力を持っていた。


 そして。


 深く進むほど。


 強くなっている。


「……おかしいですね」


 ノアが歩きながら呟く。


「何が?」


 ザインが聞く。


「異質な魔力です」


「濃くなってる?」


「はい」


 ノアは暗闇を見る。


「奥へ進むほど、魔物から感じる魔力が強くなっています」


「じゃあ」


 イリスが言う。


「原因が近くにある可能性が高い?」


「……そうかもしれません」


 ザインが前を見る。


「村の人たちの魔力は?」


「まだ先です」


「なら」


 ザインが歩く。


「進むしかないね」


 さらに。


 しばらく歩いた。


 そして。


「……。」


 ザインが止まった。


「また?」


 イリスが聞く。


「いや」


 ザインは周囲を見る。


「逆」


「逆?」


「……何もいない」


 静かだった。


 先ほどまで。


 時折聞こえていた。


 魔物の声。


 足音。


 何かが動く気配。


 それが。


 完全に消えている。


「確かに……」


 ノアも周囲を探る。


「魔力反応がありません」


「さっきまであれだけいたのに?」


「はい」


 ザインは剣へ手を掛けた。


「……嫌な感じだね」


 三人は。


 さらに慎重に進む。


 やがて。


 通路の先。


 巨大な空間が現れた。


「……。」


 イリスが炎を前へ飛ばす。


 光が。


 空間を照らしていく。


 広い。


 今までとは。


 比べ物にならない。


 巨大な地下空間。


「……何ここ」


 イリスが呟く。


 ザインも。


 何も言わず。


 前を見る。


 そして。


 ノアが。


 何かに気付いた。


「……待ってください」


「どうした?」


「魔力が……」


 ノアの顔色が変わる。


「何?」


「村人たちの魔力です」


「ここ?」


「はい」


 ノアは目を閉じる。


「この先から……」


 その時。


 ズン――。


 地面が。


 揺れた。


「……。」


 三人が止まる。


 ズン――。


 もう一度。


 何かが。


 動いている。


 イリスが炎を高く上げる。


 光が。


 奥へ届く。


「……。」


 ザインの目が。


 ゆっくりと見開かれた。


 最初は。


 巨大な岩だと思った。


 洞窟の奥。


 岩壁の前に。


 巨大な塊がある。


 だが。


 それが。


 動いた。


 ゆっくりと。


 頭が持ち上がる。


「……ノア」


 ザインが小さく呼ぶ。


「……はい」


「あれ」


 剣を抜く。


「知ってる?」


 ノアは。


 答えなかった。


 いや。


 答えられなかった。


 巨大な身体。


 岩のような鱗。


 太い四肢。


 そして。


 地面を這う。


 巨大な尾。


 ノアの顔から。


 血の気が引いていく。


「……嘘」


 地響き。


 巨大な生物が。


 完全に身体を起こした。


 その瞳が。


 三人を捉える。


「ノア」


 ザインがもう一度聞く。


「あれ、何?」


 ノアは。


 ようやく。


 声を絞り出した。


「……地竜です」


 次の瞬間。


 地竜の咆哮が。


 大洞窟の最深部を震わせた。

第14話をお読みいただきありがとうございます!


ノアの杖が折れ、今まで当たり前だった援護魔法すら使えない状況に。


それでも三人は村人たちの痕跡を追い、ついに大洞窟の最深部へ辿り着きました。


そして現れたのは――地竜。


果たして三人は、この怪物を相手にどう立ち回るのか。


次回、地竜戦です!


続きもよろしくお願いします!

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