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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
序章
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14/102

深層の主

落下の末、辿り着いたのは地図にも載っていない大洞窟の深層。


さらに落下の衝撃でノアの杖は折れ、三人は万全とは言えない状態に。


それでも村人たちの魔力を追い、ザインたちはさらに奥へと進んでいく。


そしてその先で待ち受けていたのは――。

地図にも載っていない、大洞窟の深層。三人はイリスの炎を頼りに、暗闇の中を進んでいた。


「……。」


先頭を歩くザインが、ふと足を止める。


「どうしたの?」


イリスが尋ねた。


「いや」


ザインは少し先の地面に目をやる。


「何か落ちてる」


三人が近づいてみると、そこには一本の杖が落ちていた。


「……あ」


ノアが声を漏らす。


「僕の……」


落下した時に手放してしまったのだろう。ノアは急いで駆け寄った。


「よかった……」


拾い上げようとした手が、途中で止まる。


「……。」


「ノア?」


ザインが覗き込む。


杖は、中央から大きく折れていた。


「……嘘」


ノアは二つに分かれた杖を拾い上げる。落下の衝撃だろう、魔力を通すために組み込まれていた術式も、完全に断たれていた。


「使えない?」


ザインが聞く。


「……多分」


ノアは杖を握り、魔力を流してみる。だが。


「っ……」


集まった魔力が、すぐに霧散した。


「駄目です」


ノアが小さく息を吐く。


「魔力を上手く収束できません」


イリスが首を傾げる。


「杖がないと魔法を使えないの?」


「使えないわけでは……ないです」


ノアは折れた杖を見つめた。


「でも、僕はずっと杖を媒介にして魔力を制御してきました。詠唱だけで魔力を完全に制御するのは……」


「できない?」


「……はい」


「そう」


イリスはそれだけ言うと、そのまま歩き出した。


「じゃあ帰ったら練習ね」


「……え?」


「杖なしで魔法を使う練習」


ノアが目を瞬く。


「いや、そんな簡単に……」


「簡単なんて言ってないわ」


イリスが振り返る。


「でも、できるようになった方がいいでしょう?」


「……。」


ノアはイリスの手を見た。杖など持っていない。それでも、イリスは当たり前のように魔法を使う。


「魔法は杖から出てるわけじゃないわ」


イリスが言った。


「あなたの魔力なんだから」


「……。」


「まあ」


ザインが口を挟む。


「帰れたらね」


「縁起でもないこと言わないでくれる?」


「だから帰るために進んでるんでしょ」


「分かってるわよ」


ノアは折れた杖をしばらく見つめ、少し迷ってから鞄へしまった。


「……行きましょう」


三人は再び歩き始めた。


     ◇


深層は、上層とは明らかに違っていた。


「……広いね」


ザインが呟く。天井が高く、イリスの炎でも上まで照らすことができない。もはや通路というより、巨大な地下空間だった。所々に巨大な岩柱が伸び、地面には見たことのない植物が生えている。


「この辺りは完全に未調査なのかしら」


「分かりません」


ノアが答える。


「少なくとも、僕が持っている地図にはありません」


「地図が使えないのは面倒ね」


「でも」


ザインが前を見る。


「ノアは村の人たちの魔力を追えるんでしょ?」


「……はい」


ノアは意識を集中させる。杖は必要ない。魔力を外へ放つ魔法とは違い、周囲の魔力を感じ取るだけなら問題なかった。


「まだあります」


「方向は?」


「あっちです」


ノアが指差す。暗闇の先を。


「じゃあ行こう」


三人は進む。しばらくして、ザインが再び足を止めた。


「……いる」


剣を抜く。イリスも構えた。


「どこ?」


「右」


岩柱の陰で、何かが動く。イリスが炎を向けると、光が届いた。


「……また?」


現れたのは獣型の魔物だった。だが、今まで見たものよりも、さらに大きい。


「ノア」


「……知っています」


ノアが魔物を見る。


「黒牙豹です」


「強い?」


「本来なら、中級程度の冒険者が複数人で討伐する魔物です」


「本来なら?」


「……。」


ノアが魔力を探る。すぐに、顔をしかめた。


「やっぱりあります」


「あの魔力ね」


イリスが言う。


「はい」


嫌な魔力。上層で遭遇した魔物たちと、同じものだった。だが。


「……濃い」


「何?」


「今までの個体より、かなり濃いです」


ザインが剣を構える。


「じゃあ」


黒牙豹が身体を沈める。


「かなり強いと思った方がよさそうだね」


次の瞬間、消えた。


「――っ!」


ザインが剣を横へ振る。ガキンッ! 何もなかったはずの場所で、剣と爪が衝突した。


「速っ……!」


ザインの身体が押される。黒牙豹が前脚を振り抜き、ザインが身を屈めると、頭上を爪が通過していく。


「ザイン!」


イリスの炎が飛ぶ。黒牙豹が跳び、岩柱へ着地する。そのまま、壁を蹴った。


「上!」


ザインが振り向く。黒牙豹が頭上から襲い掛かった。


「――っ!」


剣で受ける。衝撃で、ザインの膝が沈んだ。


「重い……!」


「ザインさん!」


ノアが杖へ手を伸ばす。


「――我が魔力よ……」


止まった。杖は、ない。


「……っ」


それでも、手をザインへ向ける。


「我が意に従い、彼の者へ――」


魔力を集める。手の中へ。集まれ。集まれ。


「――力を!」


魔力が、広がる。


「……え?」


散った。何も起こらない。


「くそ……!」


もう一度。


「我が――」


「ノア!」


「!」


ザインが黒牙豹を蹴り飛ばす。


「下がって!」


「でも!」


「大丈夫!」


ザインが剣を構える。


「こっちは二人いる!」


「……。」


ノアが歯を食いしばる。何もできない。


「イリス!」


「分かってる!」


炎が地面を走り、黒牙豹の進路を塞ぐ。黒牙豹が跳ぶと、ザインが追った。


「そっち!」


イリスが炎を放つ。黒牙豹が避けたその先に、ザインがいる。


「――っ!」


剣が、黒牙豹の身体を斬り裂く。


「グァァァッ!」


だが、浅い。


「硬い!」


「もう一発!」


イリスの炎。ザインが下がった直後、爆発が起こり、黒牙豹の身体が炎に包まれる。


「グルァァァァッ!」


それでも、飛び出してくる。


「しつこい!」


ザインが避ける。爪が頬を掠めた。


「ザイン!」


「大丈夫!」


ザインが地面を蹴る。黒牙豹も、ザインへ飛ぶ。正面で、ザインは剣を構えた。そして直前、身体を横へ滑らせる。黒牙豹の爪が空を切った。


ザインは、その懐へ潜り込んだ。


「――そこ!」


剣を下から振り上げる。刃が、黒牙豹の腹部を深く斬り裂いた。


「グ――」


そのまま、ザインは身体を回す。二撃目、首へ。一閃。黒牙豹の巨体が地面へ落ちた。


「……。」


ザインは剣を構えたまま、数秒待つ。動かない。


「……終わった」


剣を下ろす。


「手間取ったわね」


イリスが近づく。


「ノアの援護がないからね」


「……。」


ノアが俯いた。


「ごめんなさい」


「え?」


ザインが振り返る。


「僕が援護できていれば、もっと楽に倒せたはずです」


「なんで謝るの?」


「でも……」


「杖が折れたのはノアのせいじゃないでしょ」


「……。」


イリスも近づく。


「それに」


ノアを見る。


「いきなり杖なしで成功するなら、誰も苦労しないわ」


「イリスさん……」


「魔力を集めるところまでは出来てた」


「……え?」


「最後に制御を失ってるだけ」


イリスは自分の手を見る。


「杖は魔力を整えるための道具よ。今まで杖がやってくれていたことを、自分でやればいい」


「そんな簡単に……」


「だから」


イリスが言う。


「簡単だとは言ってないでしょう?」


「……。」


ザインが少し笑う。


「帰ったら特訓だね」


「ザインさんまで……」


「その前に帰らないとだけど」


「それ今言う必要あります?」


「あるよ」


「ないです」


イリスが即答した。


「……。」


三人の間に、少しだけ、いつもの空気が戻った。


     ◇


さらに奥へ、深く、深く。三人は進んだ。途中、何度か魔物と遭遇した。そのどれもが、異常な魔力を持っていた。そして、深く進むほど、強くなっている。


「……おかしいですね」


ノアが歩きながら呟く。


「何が?」


ザインが聞く。


「異質な魔力です」


「濃くなってる?」


「はい」


ノアは暗闇を見る。


「奥へ進むほど、魔物から感じる魔力が強くなっています」


「じゃあ」


イリスが言う。


「原因が近くにある可能性が高い?」


「……そうかもしれません」


ザインが前を見る。


「村の人たちの魔力は?」


「まだ先です」


「なら」


ザインが歩く。


「進むしかないね」


さらに、しばらく歩いた。そして。


「……。」


ザインが止まった。


「また?」


イリスが聞く。


「いや」


ザインは周囲を見る。


「逆」


「逆?」


「……何もいない」


静かだった。先ほどまで時折聞こえていた魔物の声、足音、何かが動く気配。それが、完全に消えている。


「確かに……」


ノアも周囲を探る。


「魔力反応がありません」


「さっきまであれだけいたのに?」


「はい」


ザインは剣へ手を掛けた。


「……嫌な感じだね」


三人は、さらに慎重に進む。やがて、通路の先に巨大な空間が現れた。


「……。」


イリスが炎を前へ飛ばす。光が、空間を照らしていく。広い。今までとは、比べ物にならない巨大な地下空間だった。


「……何ここ」


イリスが呟く。ザインも、何も言わず前を見る。そして、ノアが、何かに気付いた。


「……待ってください」


「どうした?」


「魔力が……」


ノアの顔色が変わる。


「何?」


「村人たちの魔力です」


「ここ?」


「はい」


ノアは目を閉じる。


「この先から……」


その時。ズン――。地面が、揺れた。


「……。」


三人が止まる。ズン――。もう一度。何かが、動いている。


イリスが炎を高く上げる。光が、奥へ届く。


「……。」


ザインの目が、ゆっくりと見開かれた。


最初は、巨大な岩だと思った。洞窟の奥、岩壁の前に、巨大な塊がある。だが、それが、動いた。ゆっくりと、頭が持ち上がる。


「……ノア」


ザインが小さく呼ぶ。


「……はい」


「あれ」


剣を抜く。


「知ってる?」


ノアは、答えなかった。いや、答えられなかった。


巨大な身体。岩のような鱗。太い四肢。そして、地面を這う巨大な尾。ノアの顔から、血の気が引いていく。


「……嘘」


地響き。巨大な生物が、完全に身体を起こした。その瞳が、三人を捉える。


「ノア」


ザインがもう一度聞く。


「あれ、何?」


ノアは、ようやく、声を絞り出した。


「……地竜です」


次の瞬間。地竜の咆哮が、大洞窟の最深部を震わせた。


第14話をお読みいただきありがとうございます!


ノアの杖が折れ、今まで当たり前だった援護魔法すら使えない状況に。


それでも三人は村人たちの痕跡を追い、ついに大洞窟の最深部へ辿り着きました。


そして現れたのは――地竜。


果たして三人は、この怪物を相手にどう立ち回るのか。


次回、地竜戦です!


続きもよろしくお願いします!

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