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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
序章
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13/102

深層への道。

洞窟の異変をギルドへ報告するため、撤退を決めたザインたち。


しかし、帰路を塞ぐように現れたのは――またしても異常な魔力を宿した魔物だった。


三人は無事、洞窟を抜け出すことができるのか。

 ズ……。


 ズ……。


 重い音が、暗闇の奥から近づいてくる。ザインは剣を抜いたまま、その先を見つめていた。


「……来る」


 イリスの周囲に炎が浮かぶ。ノアも杖を握り締めた。


 やがて、暗闇の中に浮かんでいた二つの光が、ゆっくりと近づいてくる。イリスの炎が照らした。


「……なによ、あれ」


 巨大な身体。四本の太い脚。岩のような外皮に覆われた胴体。その頭部からは、二本の巨大な角が伸びている。通路の半分以上を塞ぐほどの巨体だった。


「ノア」


 ザインが魔物から目を離さずに聞く。


「知ってる?」


「……似た魔物なら」


「似た?」


「岩角獣です。山岳地帯に生息する魔物で、突進力と硬い外皮が特徴です」


 ノアは目の前の魔物を見る。


「でも……」


 明らかに大きい。記憶にある岩角獣とは、体格が違いすぎる。


「やっぱり、こいつも?」


 ザインが聞く。ノアは魔力を探る。瞬間。


「……はい」


 あの感覚。身体が拒絶するような、気味の悪い魔力。


「同じです」


「……そう」


 ザインは剣を構え直した。


「帰らせてくれる気はなさそうだね」


「そのようね」


 イリスも両手を構える。


「ノア。下がってて」


「はい!」


 ノアが後方へ下がる。直後。


「グォォォォッ!!」


 岩角獣が咆哮した。洞窟全体が震える。そして、巨体からは想像できない速度で、地面を蹴った。


「散って!」


 三人が左右へ飛ぶ。直後、岩角獣が先ほどまで三人がいた場所を通過した。


 ドゴォン!!


「……っ!」


 巨大な角が岩壁へ突き刺さる。壁が砕け、岩片が周囲へ飛び散った。


「冗談でしょ……」


 イリスが顔をしかめる。


「洞窟ごと壊す気?」


「多分そこまで考えてないよ!」


 ザインが岩角獣へ駆ける。壁へ角が刺さっている。今なら。


「──っ!」


 ザインが剣を振り下ろした。狙いは後脚。


 ガキィン!


「……やっぱり!」


 刃が弾かれる。ザインはすぐに後方へ跳んだ。直後、岩角獣が脚を振り上げる。ザインの目の前を巨大な蹄が通過した。


「硬すぎる!」


「岩角獣は元々硬い外皮を持っています!」


 ノアが叫ぶ。


「ただ、普通ならザインさんの剣がここまで弾かれることはないはずです!」


「つまり、また強くなってるってことね!」


 イリスが腕を振る。炎が一直線に飛ぶ。岩角獣の側面へ直撃。爆発。


「グォォォッ!」


 魔物が身体を振る。


「……効いてはいる!」


 イリスが言う。


「でも決定打にはならないわ!」


「十分!」


 ザインが炎の中へ飛び込む。


「ちょっと!」


 イリスが声を上げる。ザインは構わず距離を詰める。炎で熱せられた外皮、先ほどより僅かに色が変わっている。


「ここなら!」


 剣を振るう。


 ガッ!


 今度は弾かれない。刃が外皮へ食い込んだ。


「グァァァァッ!」


 岩角獣が暴れる。


「ザインさん! 離れて!」


 ノアの声。ザインは剣を引き抜き、後ろへ跳ぶ。直後、巨大な尾が横薙ぎに振るわれた。ザインの身体すれすれを通過。そのまま岩壁へ。


 ドゴォォン!!


 再び壁が砕ける。パラパラと、天井から小石が落ちてきた。


「……」


 ノアが上を見る。


「まずい……」


「どうしたの?」


 イリスが聞く。


「さっきから壁に攻撃が当たりすぎてます!」


 ノアは天井を見る。僅かだが、亀裂が走っている。


「長引かせない方がいいです!」


「簡単に言うね!」


 ザインが岩角獣の突進を横へ躱す。


 ドゴォン!!


 また岩壁が砕ける。洞窟が揺れる。


「……っ!」


 今度は明らかに大きな揺れだった。


「ザイン!」


「分かってる!」


 ザインが走る。


「イリス!」


「今度は何!?」


「さっきと同じ!」


 一瞬、イリスがザインの意図を理解する。


「……本当に人使いが荒いわね!」


 両手を向ける。炎、先ほどより強い。だが、洞窟を壊さないように、威力を一点へ集中させる。


「ザイン! 場所は!?」


「右の前脚!」


「分かったわ!」


 炎が放たれた。一直線に、岩角獣の右前脚へ。


 ドンッ!


「グォォォッ!」


 外皮が熱せられる。岩角獣がイリスへ顔を向けた。


「今!」


 ザインが地面を蹴る。一直線に、右前脚へ。


「──っ!」


 剣を振り抜いた。


 ザンッ!


 刃が外皮を突破する。岩角獣の巨体が傾いた。


「グォォォォォッ!!」


 怒り狂ったように暴れ始める。


「ザインさん!」


「まだ!」


 ザインは止まらない。傾いた身体、その下。外皮に覆われていない部分が見えた。


「ノア!」


「胸元です!」


 即答。


「そこだけ外皮が薄い!」


「了解!」


 ザインが踏み込む。剣を両手で握る。そして、全身を使って突き出した。


「──っ!!」


 刃が、岩角獣の胸へ深く突き刺さる。


「グ──」


 巨体が止まった。ザインは剣を引き抜く。一歩、二歩、後ろへ下がる。岩角獣の脚が震えた。そして。


 ズゥン――。


 巨大な身体が地面へ崩れ落ちた。


「……」


 ザインはしばらく剣を構えたまま待つ。動かない。


「……倒した」


 剣を下ろす。


「もう……」


 イリスが息を吐く。


「帰るだけでなんでこんな目に遭うのよ」


「本当だね」


 ザインも息を整える。


「早く戻りましょう」


 ノアが二人へ近づく。


「これ以上ここにいるのは──」


 ミシッ。


「……」


 三人が止まった。


「今の」


 イリスが上を見る。


「何?」


 ミシ。ミシミシ。


 ザインも天井を見る。亀裂、先ほどまでより明らかに広がっている。


「……走った方がいいね」


「賛成です!」


 三人が走り出す。その瞬間。


 ドゴォォォォォン!!


「っ!?」


 背後で天井が崩れた。岩角獣の死体が、巨大な岩に押し潰される。


「走って!」


 ザインが叫ぶ。三人は来た道へ向かって走る。だが、崩壊は止まらない。天井、壁。次々と亀裂が広がっていく。


「まずいです!」


 ノアが叫ぶ。


「崩落が連鎖してます!」


「出口まで!?」


「分かりません!」


「とにかく走る!」


 ザインが先頭を走る。イリス、ノア、三人が続く。


 ドンッ!


 岩が落ちる。ザインが避ける。


「こっち!」


 道を曲がる。その時。


「きゃっ!」


 イリスの声。ザインが振り返る。足元、地面に亀裂が走っている。


「イリス!」


 ザインが手を伸ばす。イリスの腕を掴む。


「っ……!」


 引き寄せる。


「大丈夫?」


「ええ!」


「ザインさん!」


 ノアの声。


「下です!」


「え?」


 ザインが足元を見る。


 ミシッ。


 三人の真下、地面全体に巨大な亀裂が走っていた。


「……まずい」


 次の瞬間、地面が消えた。


「──っ!?」


 三人の身体が宙へ投げ出される。


「ザイン!」


「ノア!」


 手を伸ばす。だが、届かない。三人は、大量の岩石と共に、暗闇の底へ落ちていった。


◇


「……」


 音がする。水。どこかで、水滴が落ちている。


「……ん」


 ザインが目を開けた。暗い。身体が重い。


「……痛い」


 ゆっくり身体を起こす。全身が痛む。だが、動く。


「……」


 ザインは周囲を見る。


「イリス?」


 返事はない。


「ノア?」


 立ち上がる。暗闇。


「二人とも!」


「……うるさい」


「!」


 少し離れた場所、小さな炎が灯った。イリスが岩へ手をつきながら立ち上がる。


「頭に響くわ」


「よかった」


「何がよ……全身痛いんだけど」


「生きてるから」


「……まあ、それはそうね」


「ノアは?」


「見てないわ」


 二人が周囲を見る。


「ノア!」


「……こっち……です」


 弱い声。二人が振り向く。岩の陰、ノアが座り込んでいた。


「大丈夫?」


 ザインが近づく。


「なんとか……」


「立てる?」


「はい」


 ザインが手を差し出す。ノアが掴む。ゆっくりと立ち上がった。


「三人とも生きてるね」


「奇跡ね」


 イリスが周囲を照らす。


「それより」


 巨大な空間。先ほどまでいた場所とは、明らかに雰囲気が違う。


「ここ……どこ?」


「……」


 ノアが鞄を確認する。


「地図は?」


 ザインが聞く。


「あります」


 取り出す。幸い、破れてはいない。ノアは現在地を確認しようとする。


「……」


 地図を見る。周囲を見る。また地図を見る。


「……ノア?」


「ちょっと待ってください」


 歩く。壁、通路、岩の形。地図と照らし合わせる。


「……」


 ノアの表情が、少しずつ険しくなっていく。


「どう?」


 ザインが聞く。


「分かりません」


「……分からない?」


「はい」


 ノアは地図を見る。


「少なくとも、僕が持っている地図には……」


 周囲を見る。


「こんな場所は載っていません」


 沈黙。


「じゃあ」


 イリスが言う。


「何層まで落ちたの?」


「……それも分かりません」


 ノアが上を見る。当然、落ちてきた穴は大量の岩で塞がれている。


「戻れそう?」


 ザインが聞く。


「無理だと思います」


 ノアは首を振った。


「崩落した場所を掘り返すのは危険すぎます。また崩れる可能性があります」


「……」


 ザインは周囲を見る。前、暗闇へ続く道。後ろ、崩れた岩。


「進むしかないね」


「そうなりますね」


 イリスがため息を吐く。


「撤退するはずだったんだけど」


「仕方ないよ」


 ザインが剣を確認する。折れていない。


「出口を探そう」


「……待ってください」


 ノアが言った。


「どうした?」


「魔力を確認します」


 目を閉じる。意識を集中。まず周囲、そして村から追ってきた、あの魔力。


「……」


 薄い。かなり薄くなっている。だが。


「……ある」


「何が?」


 ザインが聞く。ノアが目を開けた。


「村人たちの魔力です」


「ここにも?」


「はい」


 ノアは暗闇の先を見る。


「まだ続いてます」


「……」


 イリスの表情が変わる。


「つまり村人たちも、この辺りまで来てるってこと?」


「少なくとも魔力の残滓は」


「……」


 ザインは暗闇を見る。


「方向は?」


「こっちです」


 ノアが洞窟の奥を指した。誰もすぐには言葉を発しなかった。撤退しようとしていた。そのはずだった。だが、偶然なのか、それとも何かに導かれているのか。自分たちは、村人たちの痕跡を追うように、さらに洞窟の深くへ落ちてきた。


「……行こう」


 ザインが剣を握る。


「出口を探すついでに、村の人たちも探せる」


「簡単に言うわね」


 イリスが言う。


「他に道もないしね」


「……それもそうね」


 ノアは地図をしまう。


「気をつけてください」


「うん」


「ここが何層なのか分かりません」


 ノアは暗闇を見る。


「もし本当に深層まで落ちているなら……」


 その先は、言わなくても三人とも分かっていた。この洞窟には、ギルドですら完全には調査できていない領域がある。そして、その最深部には地竜がいる。


「なるべく会いたくないね」


 ザインが呟く。


「珍しく意見が合うわね」


 イリスが炎を少し大きくする。


 三人は、もう一度、歩き始めた。地図にも載っていない、大洞窟の深層へ。


第13話をお読みいただきありがとうございます!


ようやく撤退――とはいきませんでした。


異常個体との戦闘によって崩れ始めた洞窟。

そして三人が落ちた先は、ギルドの地図にすら載っていない未知の領域でした。


それでも、村人たちの魔力はさらに奥へと続いている。


次回、三人は大洞窟の深層へ。


続きもよろしくお願いします!

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