その19
「まぁ、それもひとつの手だよね。
ランジュならキミが働かなくても十分な稼ぎはあるし。
司書として働いてもらえないのは残念だけど、
ランジュの奥さんになるなら仕方ないかぁ。」
「ま、待って!
なんでわたしがベルロット公子の奥さんに………?!」
「働きたくないなら仕方ないよね。
ランジュに面倒見てもらいながら生活した方が楽だし。」
「いえ、だから!
働きたくないワケでも、
公子と結婚したいワケでもなくて!!」
「だって働きたくないんだよね?
給金の額だって悪くないし、
王城の敷地内にある図書館だから警備もバッチリだし。
すぐそばで友人も働いてて、
王子からの推薦があっても働きたくないってことは、
ランジュの奥さんになりたいからでしょ?」
「いや、なんでそうなるんですか?飛躍しすぎです。
司書として働けないことと
彼の奥さんになることを結びつけないでください。」
「じゃあ司書として働いてくれる?」
「…………………………………。」
この王子………!
自分を見つめ、ニコニコと笑うロイドを、
ルルーシアは苦々しげに睨みかえす。
先ほどから感じていたが、エマもこの王子も、
どうやら自分ではなくランジュの味方らしい。
3対1の不利な状況にいることを理解したルルーシアは、
キッとロイドを睨みつけ、少しの反撃に出る。
「………………わかりました。」
「!」
「図書館の司書として、働かせていただきます。」
「おっ、言ったね?!
それじゃあさっそく契約書を作らせて…………。」
「その代わり!
…………そこにいるベルロット公子と
婚約も結婚もしなくていいと
契約書に記載していただけるのなら働きます。」
「…………え?なに?どういうこと?」
「わたしが司書として働く条件はひとつ、
公子と婚姻関係を結ばないことだけです。
………もちろん、
公子以外の男性と結ぶ事はあるかもしれませんが。」
「ル、ルル?ちょっと待って、落ち着いて。
どうしてそうなっちゃうの?」
「どうして?
わたしは公子と結婚するつもりはないからだよ。
それに、司書として働きながら
多言語について勉強しておけば、
これからの人生に役に立つかもって思ったから。」
「これからの人生?
…………ルル、あなたまさか。」
「諦めたと思った?
わたしは外交官の方と婚約したいってエマに言ったよね?
まだそれ、諦めたわけじゃ…………。」
「待った!!言わないで!!
これ以上部屋の備品が壊れるのは困る!!」
隣に座るランジュの足が動く気配がして、
ロイドはルルーシアの発言にストップをかける。
「壊れるって………なにが。」
「キミは気にしなくていい。こっちの話だから。
でもランジュの婚約者にはならないって
契約書に記載するのはちょっと、
いや、かなり?難しいかもしれないなぁ?!」
「じゃあ働きません。
どうぞ他の方をあたってください。
…………それとエマ?
しばらくはあなたとも会わない。
次に会うのはお兄様のところに旅立つ前にする。」
「ちょっ、ルル!!待っ…………!」
二人が味方ではないとわかった以上、
ここにいるのは危険だと察知したルルーシアは、
今度こそ部屋から退出するために立ち上がる。
………急いだ方がいいかもしれない。
この国に長くいるのはやっぱり危険だ。
すぐにでもお兄様に連絡をとって、
一刻も早く出国できるようにしないとこのままじゃ………
「…………………ルル。」
「!!」
勢いに任せ司書として働く条件を突き付け、
エマとロイドを振り切ろうとしたルルーシアは
ここにきてやっと、最大の敵がいたことを思い出す。
しかもどうやらその敵は、
今のこの状況を好ましくは思ってないらしい。
「ちょっと落ち着いて?
司書として働いてほしいって殿下が頼んだ事と、
俺と結婚するかどうかは別問題でしょ?
なのに契約書に記載させるのは
ちょっとおかしいんじゃないかなぁ。」
「そ、それは…………
司書として働いてくれないのは、
あなたとけっ、結婚したいからだとか
ワケのわからないことを殿下が言うから!」
「えっ?!俺っ?!俺のせいなの?!」
「…………あなたは少し黙っててもらえますか、殿下。」
「……………はい。」
二人の上下関係はどうなっているのかと、
シュンと下を向くロイドを見ながらルルーシアは思ったが、
今はそれどころではない。
…………この人に言い勝つのは至難の業だ。
しかもこの薄っぺらな笑顔を浮かべている時は、
大抵イライラしているか、不機嫌になりつつある証拠だ。
「ねぇ、ルル。
どうしてそんなに俺と婚約するのは嫌なの?
子供の頃から一緒にいてお互いのことはわかってるし、
公爵家同士だから家柄も問題はない。
まぁ年齢的にルルはまだ17だし?
結婚するには少し早いかもしれないけど、
婚約を結ぶには問題ない年齢だよね?」
「そ、そういう問題じゃなくてっ………
わたしはわたしが決めた人と婚約も結婚もしたいし、
あなたとそういう関係になったら
この国から出るのは不可能になりますよね?!
わたしは一ヶ所に留まる生活より、
いろんな国を見てまわる生活がしたいんです!」
「それなら大丈夫だよ。旅行には連れてってあげるから。」
「旅行じゃなくて!生活の基盤として言ってるんです!」
このままじゃ埒があかない。
こうなったら………と、
ルルーシアは覚悟を決めてランジュに告げる。
「…………なにより、
わたしは公子のそばにいたくないんです!!」
目を合わさず、
下を向きながらはっきりと告げたその言葉は、
自分以外の人間をピキリと固まらせる結果となった。




