その12
「ル、ルル?ごめんね?
…………あのあと、大丈夫だった?」
「…………………………。」
パーティーの翌日。
ルルーシアは屋敷を訪ねてきたエマを、
この世のすべてを恨むかのような目で見つめていた。
「…………大丈夫だったと思う?」
「!」
「"いろんな意味“で死ぬかと思ったし!!!
なんで助けてくれなかったの?!エマっ。」
「えっ、あ、そ、そうね………ごめんなさい?
ランジュ様がルルに会いたがってたのは知ってたし、
男性とはいえ幼なじみだから大丈夫かと思って。」
「大丈夫なワケないでしょ?!
相手を誰だと思ってんの?あの悪魔だよ?
よく無事に生きて帰って来れたなぁ。って、
自分で自分を褒めてあげたいぐらいだし!!」
「……………………。
あのあと、なにがあったの?ルル。」
「……………っ。そ、それは。」
…………あのあと。
ルルーシアを窒息死させるつもりじゃないかと思うほど、
ランジュは彼女の唇を塞ぎ続けた。
時折唇が離れ、息を吸えば、すぐにまた塞がれる。
予期せぬ出来事と息苦しさに混乱し、
赤や青に顔色を変え、涙目になっていくルルーシアを、
ランジュは愉しそうに見つめ、ようやく唇を離した。
「…………どこが大人になったの?
キスだけでこんな苦しそうにしちゃって。」
「…………っ、は。………お、大人って、
そういう意味で言ったワケじゃ…………!」
「他の男にこういうこと、教えてもらったのかと思って。
でもそんなことないみたいだし、
これからいっぱい練習して、
息継ぎうまくなるように頑張らないとね?」
「………………は?」
「なんでそんな不思議そうな顔してんの?
これからは俺とこういうことしていくんだよ?」
「………………い、嫌で。」
「大丈夫だよ?
今は苦しいだけかもしれないけど、
ルルが上手に息継ぎ出来るようになるまで
何回でも教えてあげるから。」
「ヒッ…………
ぜ、絶対に嫌です!あなたとこんなこと、
二度としたくなっ………。」
「じゃあ誰とするの?」
「んぐっ?!」
自分の頬を掴んでいたランジュの手が
喉元へと移動したかと思うと、
そのまま指先に力を込められ、グッと押さえられる。
先ほどのキスの時とはまた違う息苦しさに恐怖を感じ、
ルルーシアは助けを乞うような目をランジュに向ける。
「………っ、やめっ………!」
「しないよね?ルルは俺以外の男とキスなんか。」
「………っは………離し、てっ。」
「じゃあちゃんと言って?俺以外とキスしないって。
………もちろんその先も、
全部俺とだけって約束してくれたら離してあげる。」
甘い表情で、甘い声でささやきながらも、
自分の首を押さえている指に力を込め続けるランジュに、
ルルーシアは本気で命の危機を感じ始める。
………この人は普通じゃない。狂ってる。
その事をわかっていながらどうしていつも、
わたしはこの人に捕まってしまうんだろう。
…………大丈夫。約束なんて口先だけでいい。
「…………や、約束、しますから。」
「……………………………。」
「あなた以外と、しないってっ。だからっ。」
「名前。」
「?!」
「名前、ちゃんと呼んで?
昔みたいに、ルルにだけ許した呼び方で。」
「…………………っ。」
逆らうことは許さないと、その目と口調が物語る。
こうなった時の彼に刃向かえば、
それ以上の報復を受ける事をルルーシアは知っていた。
「ねぇ、早く言わないともっと力入れるよ?」
「!!
……………っ。…………ラ、"ランちゃん"っ。」
叫ぶようにルルーシアがそう呼ぶと、
ランジュは満足したように首から手を離す。
恐怖から解放され安堵した体は一気に力が抜け、
ルルーシアはヘナヘナと床に座り込んでしまう。
「……………っ、は。」
助かった。と一息つけば、急に体がガタガタと震え始める。
…………殺されるかと思った。
顔青ざめさせながら生きている現実に浸るルルーシアに、
「……………おかえり?ルル。」
そうつぶやいて、嬉しそうに自分を見つめるランジュを、
ルルーシアはただジッと見つめることしかできなかった。




