その11
「…………で?ランジュは今、
その幼なじみとシケこんでるってワケね。」
「………その言い方はどうかと思いますけど。」
ランジュの婚約者騒動が起こったパーティーは、
その後、無事にお開きとなった。
とはいえ若き公子の婚約者騒動とあらば
明日の新聞の一面を飾るのは間違いないだろうと
エマはため息をつく。
………まさかこんな事になるとは。
ルルーシアの友人であるエマは、
実はランジュにとっては協力者でもある。
もちろんルルーシアには秘密だが、
彼女が国から離れた後、どのような生活を送っているのか、
裏でランジュに彼女の情報を流していた。
それは決してルルーシアを陥れるためではなく、
ランジュが純粋に彼女を想っている事を知っているから。
まぁ愛情表現が歪みに歪んでいることもわかってはいるが。
「それにしても大丈夫なわけ?
歪みまくってこじらせまくった初恋の相手なんでしょ?
そんな相手と部屋に二人っきりとか、
何するかわかったもんじゃないよね?」
そう言ってエマを見つめるのは
レンガ色の髪と漆黒の瞳を持つ、
ランジュとはまた違ったタイプの美丈夫。
彼はこの国の王子であり、いずれ国王となる男だ。
「そう思うのなら
王子の権限でも使って部屋から出てくるように
ランジュ様に進言してもらえますか?ロイド様。」
「絶対嫌だね、お断り。
ランジュに殺されたくないもん、俺。」
「………あなた、それでも王子ですか?
仮にも未来の宰相が
殺人未遂を起こしてたらどうするんですか。」
「さすがに好きな女を殺そうとはしないでしょ。
………まぁ、殺しはしないだろうけど。」
そう言って未来の国王は
自分に仕えている公子の性格を思い出し、
ハハハと乾いた笑いを漏らした。
子供の頃からの付き合いであるランジュはこの先、
彼が国王となった際に宰相として仕える事が決まっている。
元々ランジュの生家であるベルロット家は
王家と密接な関係にある家門でもあるため、
子供の頃から共に国政について学んできた仲だ。
もちろん優先順位は、ルルーシアのが上だったが。
「アレは二重人格だからさぁ、
人前で素を出したりしないじゃん?
俺やキミの前では多少は出すこともあるけど、
アイツの本当の顔を知ってるのは
その幼なじみの彼女だけなんだよねぇ?」
「………まぁ、そうなんでしょうね。
ルル曰く、出会ってしばらくはランジュ様も
あんな恐ろしい悪魔みたいなヒトじゃなかったって
言ってましたから。」
「何をやらかしてきたの、アイツは。」
「それは私も詳しく聞いたことはないですけど、
ルルにとっては
生きるか死ぬかのレベルだったみたいです。」
「えっ、なにそれ。怖っ。」
「ランジュ様のせいで男性が苦手になったぐらいですし?
でも今考えてみると、
それも彼の作戦の一つだったのかと………。
父親が外交官である以上、
ルル達家族もそれに連れ立って国を離れることがあると、
ランジュ様は国政を学ぶ中で知ったはずです。」
「つまりそれって、
自分と離れることになっても
他の男と仲良くならないように。ってわけ?」
「えぇ、そうだと思います。
しかも恐ろしい事に、その予想が当たってるんです。」
「は?」
「ルルは見た目からして男ウケするタイプですから
いろんな国で男性に言い寄られてたみたいですけど、
ランジュ様が植え付けた恐怖心のおかげで
どの男性ともお付き合いするに至ってません。」
「…………………………。」
「狡猾な方ですよね、未来の宰相様は。」
そう言ってエマは、
自分の向かい側に座る呆れ顔をした王子を見ながら
用意された紅茶に口をつけたのだった。




