上陸の第一歩
東京都新宿区国防省地下中央指揮所
中央指揮所の空気は、緊張と安堵が微妙に混じり合っていた。大型液晶モニターには、台湾東部海岸に展開する水陸機動師団の様子が、リアルタイムで映し出されていた。砂浜に上がった35式戦車が、力強いエンジン音を響かせながら橋頭堡を固め、次々と揚陸される光景が続いている。
統合幕僚長が、落ち着いた声で報告した。
「総理、水陸機動師団の第一波揚陸が完了しました。35式戦車を展開し、橋頭堡を確保しています。現在、第二波揚陸として36式歩兵戦闘車や各種車両を急ぎ揚陸中です。水陸機動師団全ての揚陸を最優先で進めています。」
その報告を聞いた瞬間、指揮所にわずかな安堵の息が漏れた。
大泉進太郎国防大臣が、引き継ぐように補足した。
「水陸機動師団が上陸兵力の第一段階です。
第二段階では、第1空挺団と特殊作戦群を航空宇宙軍の輸送機で台湾に送り込みます。
第三段階は北部方面軍の第7機甲師団と東部方面軍の第1機械化歩兵師団、第四段階は中部方面軍の第14機甲師団と西部方面軍の第4機械化歩兵師団を投入します。
総上陸兵力は約11万8000名に達する予定です。」
大野田喜美総理は、モニターを見つめながら静かに頷いた。彼女の表情には、明確な安堵の色があった。第一波が無事に橋頭堡を確保したという事実は、作戦開始直後の大きな成果だった。しかし、同時にその瞳の奥には、強い緊張と覚悟も宿っていた。
「まずは第一段階が無事完了した……良かった。」
大野田総理は、ゆっくりと息を吐きながら言った。
「取り敢えずの安堵はあります。しかし、作戦はまだ始まったばかりです。人民解放軍の地上部隊は台湾内陸部に展開しており、激しい抵抗が予想されます。我々は、第四段階までの上陸兵力を、確実に台湾に展開させなければなりません。」
彼女は、指揮所にいる全員を見回した。
その視線は、優しくもあり、厳しくもあった。
「気合いを入れて取り組みましょう。13年前に失った台湾を、必ず取り戻す。そのために、私たちはここまで来たのです。」
大泉国防大臣が、力強く頷いた。
「了解しました。上陸部隊の支援を最大限に行います。」
統合幕僚長も、背筋を伸ばして答えた。
「航空宇宙軍南西航空軍を中心に、制空権の維持と上陸部隊への火力支援を継続します。」
中央指揮所は、再び静かな緊張感に包まれた。
安堵はあった。
しかし、それは「第一歩を踏み出せた」という一時的なものに過ぎない。
台湾奪還作戦の本番は、これからだった。
人民解放軍の反撃が、どのような形で来るのか。誰もがそのことを強く意識していた。
大野田総理は、モニターに映る台湾の海岸線を、じっと見つめ続けた。
「絶対に……取り戻す。」
その呟きは、小さく、しかし確かな決意を秘めていた。




