大陸の限界
中華人民共和国首都北京中南海中央軍事委員会緊急会議室
担当士官が、興奮した声で報告を上げた。
「日本海軍の2個空母打撃群が、後退を開始しました!」
大型液晶モニターに、偵察衛星からのリアルタイム映像が映し出された。
黒煙を上げ続ける原子力空母大鳳と大鳳空母打撃群の周囲を、信濃空母打撃群が固めながら、東シナ海を北東方向——沖縄方面へとゆっくりと離れていく様子が、はっきりと確認できた。
趙建国国家主席の顔に、久しぶりの明るい笑みが戻った。
「ふははっ! 見たか!
小日本もようやく怖気付いたんだろ!
大鳳を叩いた効果がすぐに出たではないか!」
彼は上機嫌で声を上げ、近くにいた将校の肩を叩いた。
会議室の空気に、わずかな安堵と喜びが混じり始めた。
しかし、中央軍事委員会副主席(上将)は、モニターを冷静に眺めながら静かに言った。
「主席……残念ながら、怖気付いたわけではないと思われます。」
趙建国は、笑顔のまま副主席を振り返った。
「何だと?」
副主席は、淡々と続けた。
「あれはVLSへの再装填と、補給のための後退です。
日本海軍は4個空母打撃群を運用していますが、VLSの再装填は母港でしか行えません。
つまり、彼らは常に2個空母打撃群を後退させ、残る2個で前線を維持するローテーションを取らざるを得ないのです。」
国家主席の笑みが、徐々に消えていった。
「……ということは、小日本は態勢を整え直すために行動しているのか?」
副主席は、静かに頷いた。
趙建国は、顔を歪め、苛立ちを露わにした。
「何とかならないのか!?
小日本はやりたい放題だぞ!!
台湾に上陸しようとしているというのに、我々は何もできないのか!?」
会議室は、再び重い沈黙に包まれた。
誰もが口を開かなかった。
戦略ミサイル軍も空軍も、すでに主力弾薬を大量に消費しており、即時の大規模再攻撃は不可能だった。
ない袖は振れない——その現実が、将軍たちの表情に重くのしかかっていた。
すると、空軍司令官が意を決したように口を開いた。
「主席……後方の内陸部にある空軍基地から、空中給油による長距離飛行で空襲を行うというのはどうでしょうか?」
趙建国は、即座に反応した。
「そんな事なら普通に想定出来ないのか?」
空軍司令官は、苦い表情で答えた。
「後方ということは、内陸部の基地から出撃する操縦士が中心になります。
海上での長距離飛行や作戦を想定した訓練が、十分に行われていないのです……」
中央軍事委員会副主席が、静かに補足した。
「大陸国家である我が中国の、根本的な欠点です。
日本のような島国は、航空宇宙軍も海上での運用を当然のように想定・訓練しています。
しかし我々は、沿岸部の空軍部隊しか本格的な海上作戦を想定していませんでした。
内陸部の部隊を急遽投入しても、経験と練度の差が……」
国家主席は、苛立った様子で手を振った。
「言い訳はいい!
とにかく早急に実施するのだ!!
日本に台湾を渡すわけにはいかん!」
その厳命が、会議室に響き渡った。
趙建国は、モニターに映る後退する日本空母群を睨みつけながら、歯を食いしばった。
「小日本……
好きにさせるものか……」
中央軍事委員会緊急会議室は、再び重苦しい空気に包まれた。
日本軍の台湾上陸作戦は、着実に進行していた。
一方、中国側は構造的な限界と、時間との戦いを強いられていた。




