ジレンマの選択
2040年6月15日 午後0時35分
原子力空母大和戦闘情報センター(CIC)
CICの空気は、まだ重く張りつめていた。
大鳳の被害報告がもたらした衝撃が、完全に消えていない。
しかし、戦いは止まらない。
担当士官が、明るい報告を入れた。
「遠征打撃群より入電!
水陸機動師団の第一波上陸を完了しました!
台湾東部海岸に橋頭堡を確保、現在35式戦車と歩兵戦闘車の揚陸を急いでいます!」
その報告に、CICにわずかな安堵の空気が流れた。
黒崎信一郎大将は、メインスクリーンを確認しながら、隣の星野瑞穂大佐に静かに言った。
「この間に、まず信濃空母打撃群と大鳳空母打撃群を沖縄の海軍基地に後退させる。
各艦艇のVLS再装填と、高速戦闘支援艦摩周級に補給を急がせる必要がある。」
星野大佐は、すぐに頷いた。
「それが良いと思います。
再装填と補給をしている間は、大和空母打撃群と武蔵空母打撃群だけで台湾への航空支援を行います。航空宇宙軍にも随時支援は要請出来ますが、その後、再装填と補給を終えた信濃空母打撃群と大鳳空母打撃群が戻ってきたら、入れ違いで大和空母打撃群と武蔵空母打撃群が後退するローテーションが理想的です。」
黒崎大将は、わずかに眉を寄せた。
「問題は大鳳だ。
飛行甲板と格納庫に深刻な損傷を受けている。再出撃は当分難しいだろう。
大鳳空母打撃群の残存艦艇は、一時的に残る3個空母打撃群に分散配備する必要がある。」
星野大佐も同意した。
「大鳳の空母航空隊も、3隻に分散配備して少しでも戦力低下を防ぐべきです。
烈風2型と桜嵐の運用効率が落ちますが……今はそれが最善でしょう。」
黒崎大将は深く頷き、担当士官に命じた。
「原子力空母大鳳に通信回線を開け。」
数秒後、大和CICの大型液晶モニターに、高橋昌幸大将の姿が映し出された。
高橋大将の顔には、疲労と決意が刻まれていた。
黒崎大将は、旧友に直接告げた。
「高橋、大鳳空母打撃群と信濃空母打撃群は、即時沖縄の海軍基地に後退せよ。
各艦艇のVLS再装填と、高速戦闘支援艦へ補給を行う。
大鳳はそのまま修理に当たるため、大鳳空母打撃群の残存艦艇は一時的に3個空母打撃群に分散配備する。
大鳳の空母航空隊も、3隻の空母に分散して受け入れる。
戦力低下を最小限に抑える。」
高橋大将は、画面越しに深く頷いた。
「分かった。
大鳳は必ず守り切る。
残存部隊も、分散配備に全面協力する。」
通信回線が閉じられた瞬間、黒崎大将は再び全艦に命令を下した。
「大鳳の空母航空隊を3隻に分散させて受け入れろ。
着艦体制を整えよ。
信濃空母打撃群と大鳳空母打撃群が戻ってくるまでは、我々と武蔵空母打撃群だけで台湾の水陸機動師団を全力で支援する!」
CICに緊張した空気が満ちた。
黒崎大将は、星野大佐と目を合わせ、静かに言った。
「……これが、我々のジレンマだ。
戦いが長引けば4個空母打撃群を同時に前線に展開できない。
VLS再装填と補給のために、2個は後退させなければならない。
中国がこの隙を突いてくる可能性は高い。」
星野大佐は、静かに答えた。
「ですが……それでも我々は前進します。
台湾を取り戻すために。」
台湾東部海域では、日本海軍連合艦隊が、初めて直面した持続力の限界と戦いながらも、上陸作戦を着実に進めていた。




