崩れゆく自信
同時刻。中華人民共和国首都北京中南海中央軍事委員会会議室
会議室の空気が、一瞬で凍りついた。
大型液晶モニターに映し出されていた1185発の極超音速ミサイルの群れは、ほとんどが海面に落ち、爆発し、消えていった。
続いて発射された魚雷の群れも、次々と迎撃され、水柱を上げて無力化されていく。
趙建国国家主席の笑みが、ゆっくりと凍りついた。
「…………何だ、これは?」
彼の声は、低く、かすかに震えていた。
先ほどまでの余裕に満ちた表情は、すでにどこにもなかった。
目を見開き、モニターに釘付けになったまま、言葉を失っている。
中央軍事委員会副主席(上将)が、慌てて報告を上げた。
「主席……迎撃されています。
日本軍の連合艦隊は、リニアカノン、5センチレーザー砲、20ミリレーザーガトリングガンによる多層防御で、ほぼ全てのミサイルを撃墜。
魚雷攻撃も、駆逐艦と攻撃型原子力潜水艦の連携で大部分を無力化しています。
被害は……極めて軽微です。」
趙建国は、ゆっくりと立ち上がった。
その動きは、まるで自分の足元が揺れているかのように、不安定だった。
「軽微……だと?
1185発の極超音速ミサイルだぞ?
人類史上最大規模の飽和攻撃だ!
それが……ほとんど通じていないというのか?」
彼の声が、徐々に大きくなった。
最初は驚きだったものが、次第に怒りと動揺に変わっていくのが、はっきりと分かった。
「日本など、所詮は小さな島国だ!
再軍備を叫んで威勢だけは良かったが……張り子の虎に過ぎんと言ったではないか!
それが……我が軍の攻撃を、ほとんど防ぎきったというのか?!」
会議室にいる将軍たちの多くが、目を伏せたまま言葉を失っていた。
東部戦区司令員は、静かに息を吐きながら、心の中で思った。
(……やはり、練度と技術の差が……)
趙建国は、モニターに近づき、両手を机に叩きつけた。
その音が、会議室に大きく響いた。
「信じられん……!
我が中華人民共和国は、世界最大の軍事大国だ!
空母7隻、艦艇総数ではアメリカを上回る!
陸軍の兵力数は世界一、空軍の保有機数も世界一!
それなのに……日本ごときに、この程度の攻撃が通じないというのか?!」
彼の声は、怒りと動揺でかすかに震えていた。
先ほどまでの傲慢で余裕たっぷりの笑みは、完全に消え失せ、代わりに額に汗が浮かび、目には明らかな狼狽が浮かんでいた。
「13年前、台湾を我々の手に収めたときも、日本は何もできなかったはずだ……!
それが今……この程度の軍拡で、我々に歯向かうなど……許さん!」
国家主席は、拳を強く握りしめ、モニターを睨みつけた。
しかし、画面に映る日本の連合艦隊は、ほとんど無傷のまま、整然とした陣形を保ち続けていた。
灰色の鋼鉄の龍は、静かで力強い波を立てながら、なおも東シナ海を進んでいる。
東部戦区司令員が、慎重に口を開いた。
「主席……日本軍の迎撃システムは、予想以上に強力です。
特にレーザー兵器と電磁加速砲の組み合わせ、そして太陽発電衛星による電力供給は、我々の想定を超えています。
今すぐ次の手を……」
趙建国は、苛立ったように手を振った。
「次の手など、必要ない!
ただ、叩き潰せ!
全軍に命じろ!
次の波を、もっと大きく、もっと速く送り込め!
小日本など、すぐに沈むはずだ!」
その言葉は、まるで自分自身に言い聞かせるかのように、強引だった。
しかし、会議室の空気は、すでに重く淀んでいた。
将軍たちの何人かは、静かに目を伏せ、内心で現実とのギャップを痛感していた。
趙建国は、再びモニターを見つめ、歯を食いしばった。
「日本……よくも……」
その瞳には、過剰な自信が崩れ始めた、明らかな動揺が浮かんでいた。




