海底からの牙
2040年6月15日 午前11時28分
東シナ海 宮古島北東海域
原子力空母大和の戦闘情報センター(CIC)は、安堵の空気に包まれていた。
1185発に及ぶ中国人民解放軍の大規模飽和攻撃を、連合艦隊はほぼ完璧に迎え撃った。
リニアカノン、5センチレーザー砲、20ミリレーザーガトリングガン、そしてSM-9Aと新型迎撃ミサイルの多層防御網が、敵ミサイルの大部分を海に葬った。
被害は軽微——大鳳空母打撃群のミサイル駆逐艦大波が破片によりVLS 2セルとレーザーガトリングガン1基に損傷を受けただけだった。
黒崎信一郎大将は、メインスクリーンを静かに見つめながら小さく息を吐いた。
星野瑞穂大佐も、隣でわずかに頷いた。
その瞬間——
担当士官が、突然悲鳴のような声を上げた。
「魚雷接近中!! 100本はあります!!」
CICが一瞬で騒然となった。
士官たちが慌ててデータを確認し、警報が鳴り響く。
しかし、黒崎司令官と星野艦長は、ほとんど表情を変えなかった。
二人は、冷静にメインスクリーンを見つめていた。
液晶モニターには、各空母打撃群の各戦隊に所属する駆逐艦が、すでに素早く動き出している様子が映し出されていた。
さらに、突然の魚雷出現は、各空母打撃群に随伴していた攻撃型原子力潜水艦親潮級からの雷撃が開始された証でもあった。
星野瑞穂大佐が、黒崎大将に近づき、小さく言った。
「予想通りでしたね。」
黒崎信一郎大将は、静かに頷いた。
「万が一の事態も想定して、他の空母打撃群の司令官や艦長たちには、事前に命令を出しておいて良かった。」
彼らは、人民解放軍の大規模飽和攻撃がミサイルだけでなく、雷撃でも行われる可能性を予想していた。
台湾有事の経験と、中国海軍の戦術パターンを分析した結果、ミサイル飽和攻撃の直後に潜水艦による魚雷攻撃を仕掛けてくる可能性が高いと判断したのだ。
そのため、黒崎司令官は各空母打撃群の司令官と艦長に対し、「雷撃が確認されたら各判断で行動せよ」と事前に指示を出していた。
原子力空母大和級は対潜兵装を持たないため、航行を続けながら対潜哨戒機を電磁カタパルトから緊急発艦させた。
桜嵐の無人機も、対潜哨戒モードに切り替わり、海面下の脅威を探知し始めた。
そして、大規模な魚雷迎撃が開始された。
各駆逐艦から、短魚雷が次々と発射された。
水面下で爆発が連鎖し、白い水柱がいくつも上がる。
親潮級攻撃型原子力潜水艦も、水中から積極的に対抗雷撃を仕掛け、中国の攻撃型潜水艦を牽制した。
魚雷の群れは、次々と迎撃され、海中に消えていった。
黒崎大将は、CICで静かに命令を下した。
「全空母、発艦開始!!」
その瞬間、4隻の原子力空母大和級の飛行甲板が、一斉に活気づいた。
烈風2型と桜嵐の無人機が、電磁カタパルトから次々と射出される。
灰色の鋼鉄の龍は、守りから攻めへと、静かに、しかし確実に移行しようとしていた。
日本海軍連合艦隊の反撃が、今、始まろうとしていた。




