緊迫状態の海域
同時刻、宮古島北200キロ海域東シナ海。
灰色の海面が、朝の光を受けて静かに輝いていた。
日本海軍連合艦隊は、すでに戦闘配置を完了していた。
4個空母打撃群が前方に広く展開し、2個遠征打撃群がその後方、やや内側に固まって位置を取っている。
四隻の原子力空母大和級を中核とする鋼鉄の陣形は、まるで巨大な菱形を描くように、東シナ海の波を静かに切り裂いていた。
大和空母打撃群の旗艦、原子力空母大和の飛行甲板では、烈風2型と桜嵐の無人機群が整然と並び、いつでも発艦できる状態を維持していた。
艦橋の最上部では、軍艦旗が強い風に勢いよくはためいている。
その後方では、強襲揚陸艦紀伊と能登を中核とする2個遠征打撃群が、慎重に間隔を保ちながら進んでいた。
紀伊級の全通飛行甲板からは、桜嵐の無人機が次々と離艦し、周辺海域の警戒を強化している。
さらに上空では、航空宇宙軍南西航空軍(司令部:那覇)直轄の南西航空警戒管制団所属の早期警戒管制機が、ゆったりとした軌道を描きながら飛行していた。
そのレーダー波は、広大な東シナ海を網の目のように覆い、敵の動きを逃さず捉え続けている。
そして、空からさらに高い位置——宇宙空間では、航空宇宙軍が運用する衛星コンステレーションが、南西諸島上空でリアルタイムのピンポイント偵察を展開していた。
光学・赤外線・合成開口レーダーによる多層監視が、中国軍の動きを秒単位で捉え、暗号化されたデータリンクを通じて日本軍の全指揮系統に共有されていた。
大和の戦闘情報センター(CIC)は、赤みを帯びた照明の下で静かに息を潜めていた。
CICの中央に立つ大和空母打撃群司令官、黒崎信一郎大将は、メインスクリーンに映るリアルタイムデータをじっと見つめていた。
彼の表情は、わずかに緊張を帯びていた。
再軍備を果たした新生日本軍にとって、初めての本格的な戦闘が、今まさに始まろうとしていた。
すでに大野田総理による「事実上の戦争状態突入」の宣言が出ている。
交戦規定はクリア済みだった。
あとは、現場判断で攻撃を開始するのみ——
その時、大和艦長、星野瑞穂大佐が、黒崎大将の横に静かに近づいた。
「司令官……」
彼女は、少し声を低くして言った。
「中国に、先制攻撃をさせてみてはどうでしょうか?」
CICにいる士官たちの視線が、一瞬で星野艦長に集中した。
驚きの空気が広がる。
黒崎大将も、わずかに眉を寄せた。
「先制攻撃……か?」
星野瑞穂大佐は、動じることなく続けた。
「はい。
私たちの練度と能力を、中国に、そして世界に見せつける絶好の機会です。
中国は今も我々を『小さな島国』と侮っています。
その自信を、最初の一撃で叩きのめす。
それが、心理的な優位を確立する最善の方法だと考えます。」
CICが静まり返った。
黒崎大将は、スクリーンに映る中国軍の動きをもう一度確認した。
衛星コンステレーションからのリアルタイム映像は、敵艦隊の陣形にわずかな乱れがあることをはっきりと示していた。
彼は、ゆっくりと頷いた。
「……確かに、悪くない。
しかも、航空宇宙軍の衛星コンステレーションによるリアルタイム映像は、世界中に発信することも可能だ。
中国の『世界最大の軍事大国』という宣伝を、最初の一手で崩す効果もある。」
黒崎大将は、決断を下した。
「艦長の意見を採用する。
国防省への通信回線を開け。
総理と統合幕僚長に、現場判断による中国に先制攻撃をさせる、その許可を求める。」
CICに、再び緊張した活気が戻った。
星野瑞穂大佐は、静かに敬礼した。
その瞳には、静かな闘志が燃えていた。
連合艦隊は、宮古島北200キロ海域で、静かに、しかし確実に、次の瞬間を待っていた。




