北京の自信
同時刻。中華人民共和国首都北京中南海。そこにある会議室では、緊張と興奮が入り混じった空気に満ちていた。
巨大な円卓の中央に座るのは、中華人民共和国国家主席、趙 建国。
62歳。台湾侵攻を行った前任者の後継者として2030年から権力を握り、現在も中国共産党による鉄の支配を続けている男だった。
趙国家主席は、ゆっくりと背もたれに体を預け、口元に薄い笑みを浮かべていた。
その笑みは、穏やかでありながら、底知れぬ自信と嘲りに満ちていた。
会議室の壁一面に並ぶ大型モニターには、日本の最後通牒に対する中国側の対応状況がリアルタイムで表示されていた。
外交部はあえて沈黙を貫き、一切の公式反応を示していなかった。
しかし、軍事面では全く別の動きが始まっていた。
中央軍事委員会副主席(上将、中国人民解放軍制服組のトップ)が、硬い声で報告を上げた。
「主席、現在、東部戦区所属艦隊が舟山基地および青島基地から大規模に出撃準備を完了しています。
空母2隻を含む主力水上戦闘群は、すでに港外に移動を開始。
北部戦区所属艦隊は空母3隻を含む主力群が、南部戦区所属艦隊は空母2隻を含む主力群が、それぞれ移動を開始しております。
陸軍の東部戦区および南部戦区でも、機械化部隊と揚陸部隊の展開が急ピッチで進んでいます。
空軍は戦闘機・爆撃機の緊急展開を完了し、戦略ミサイル軍も一部の移動式発射装置に燃料注入を開始しました。」
趙国家主席は、ゆっくりと頷いた。
その表情には、まるで獲物を前にした獣のような満足感が浮かんでいた。
「ふむ……日本がようやく牙を剥いたか。」
彼は低く笑い、モニターに映る日本の連合艦隊の光点群を眺めた。
「来るなら来い、小日本。
返り討ちにしてやる。」
国家主席の言葉に、会議室にいる将軍たちは一瞬、息を飲んだ。
趙建国はさらに笑みを深め、自信たっぷりに続けた。
「我が中華人民共和国海軍は、現在、原子力空母を含む空母7隻を保有している。
空母保有数はアメリカ合衆国が11隻だが、単純な艦艇総数はアメリカ合衆国海軍を上回る世界最大規模だ。
陸軍の兵力数は世界一、空軍の保有機数も世界一だ。
2040年現在、世界最大の軍事大国はアメリカではなく、我が中国である。
日本など、所詮は小さな島国。
再軍備を叫んで威勢だけは良いが、所詮は張子の虎に過ぎん。」
彼は椅子の背もたれに深く体を預け、優雅に足を組んだ。
「13年前、台湾を我が手に収めたときも、日本は泣き言を並べるだけで何もできなかった。
今回も同じだ。
日本がどれだけ軍拡をしようと、所詮は我が軍の前に塵芥に等しい。
海軍は7隻の空母で日本艦隊を海底に沈め、陸軍は台湾の二の舞を日本本土で演じてやる。」
趙国家主席は、満足げに笑った。
その笑みは、過剰なまでの自信と、日本への侮蔑に満ちていた。
しかし、会議室の大型モニターに映る二つの艦隊の動きは、はっきりと対照的だった。
日本の連合艦隊は、四隻の原子力空母大和級を先頭に、一糸乱れぬ完璧な艦隊機動を続けていた。
灰色の鋼鉄の龍が、静かで力強い波を立てながら東シナ海へと進んでいる。
一方、中国人民解放軍海軍の艦隊は……規模こそ圧倒的だったが、所々に陣形の乱れが見えた。
大型空母を中心に集まった艦群は、動きに統一感がなく、ところどころで遅れや混乱が目立っていた。
それは、単なる規模の差ではなく、練度と経験の差を如実に表していた。
趙建国は、その違いに気づいていないわけではなかった。
だが、彼はあえて目を細め、嘲るように言った。
「日本は派手な艦隊を見せびらかしているようだが……
所詮は、13年前に我々に叩きのめされた弱者の集まりだ。
今度こそ、完全に叩き潰してやる。」
国家主席の言葉に、将軍たちは力強く頷いた。
しかし、モニターに映る日本の連合艦隊の整然とした動きは、まるで静かな警告のように、会議室に静かに映し出され続けていた。




