新モンロー主義の影
同時刻。アメリカ合衆国首都ワシントンD.Cホワイトハウス。
オーバルオフィスの窓からは、すでに夕暮れの光が差し込んでいた。
アメリカ合衆国大統領、エドワード・J・ハリス(62歳)は、執務机に肘をつき、疲れた表情で国務長官の報告を聞いていた。
国務長官、キャサリン・L・ウォーカー(女性、58歳)は、資料を手に落ち着いた声で説明を続けていた。
彼女は上院議員で、外交経験が豊富な民主党の重鎮だった。
「大統領、日本政府は本日未明、中国に対して最後通牒を発しました。
同時に、新生日本海軍連合艦隊が出港し、東シナ海方面へ向かっています。
日米相互戦略同盟条約に基づき、私どもはすでに以下の対応を表明しています。
・政治・外交的な全面支持
・軍需物資の提供
・最新情報の共有
・後方支援の準備
日本側からは感謝の意が伝えられております。」
ハリス大統領は、ゆっくりと背もたれに体を預けた。
彼はため息をつき、短く答えた。
「……それで良い。」
ウォーカー国務長官は、わずかに眉を寄せたが、何も付け加えなかった。
ハリス大統領は、窓の外に視線を移しながら、低い声で続けた。
「今回の日本と中国の戦争に……我々は興味がない。
直接的な軍事介入は一切行わない。
新モンロー主義の原則を、しっかり守るんだ。」
ここで、オーバルオフィスの空気が少し重くなった。
13年前の2027年——台湾有事の頃、アメリカはすでに中東(イラン戦争)の泥沼に深く嵌まっていた。
当時のミッキー・カード大統領(共和党)は、中東に戦力の大半を投入し、第7艦隊まで地中海・ペルシャ湾に回していた。
結果として、日本が存立危機事態を宣言し、海上自衛隊を派遣したにもかかわらず、米国は十分な支援ができなかった。
日本は護衛艦2隻を失い、本土にミサイルが着弾し、827名の死傷者を出した。
その後、中国が台湾を完全制圧したとき、アメリカは「これ以上の拡大をしなければ容認する」と表明し、日本を事実上見捨てた。
この一件が、アメリカ国内の政治に大きな傷を残した。
共和党の支持率は急落し、次の大統領選挙では民主党が圧勝した。
民主党は選挙公約に**「新モンロー主義」**を掲げた。
それは、従来のグローバルな介入主義から一転し、
「アメリカ大陸の安全保障に集中し、ヨーロッパ・アジアへの過度な軍事関与を避ける」という現実主義的な方針だった。
新モンロー主義の核心はシンプルだった。
ヨーロッパにはNATOを通じて最小限の関与
アジアには「関与せず、干渉せず」
自国の国益と直接関係のない地域紛争には、軍事力ではなく外交・経済で対応
民主党は大統領選挙に勝利し、前任の大統領は2期8年を満了した。
現在のハリス大統領も、この新モンロー主義を忠実に継承し、1期目の任期にあった。
ウォーカー国務長官は、静かに言った。
「日本は再軍備を完了し、かなり強力な軍事力を持っています。
日米相互戦略同盟条約に基づく支援は行いますが、直接介入は避けるべきです。
国民も、中東の長期戦で疲弊しています。
アジアの紛争に、再び血を流す必要はありません。」
ハリス大統領は、ゆっくりと頷いた。
「そうだ。
日本はもう『普通の国』になった。
彼ら自身で戦うと言っているなら、それで良い。
我々は後方から支える……それが、新モンロー主義だ。」
彼は椅子の背もたれに深く体を預け、天井を見つめた。
13年前の失敗を教訓に、アメリカは「世界の警察官」であることをやめた。
今、アメリカは自国の利益だけを優先する現実主義の道を選んでいた。
オーバルオフィスの時計が、静かに時を刻む中、
遠い極東で、新生日本軍の艦隊が東シナ海へ向かう姿が、モニターに映し出されていた。




