南方からの援軍
中央指揮所の緊張がピークに達しようとしていたその時、通信士の一人が急に声を上げた。
「総理! オーストラリアから緊急速報です。
オーストラリア首相がただいま緊急記者会見を始めました!」
大野田喜美総理は即座に指示を出した。
「大型モニターに映しなさい」
壁面の巨大な液晶モニターが切り替わり、キャンベラの首相官邸記者会見場が映し出された。
壇上に立っていたのは、オーストラリアの女性首相、アン・キャロライン・ハントだった。
53歳。元国防大臣を務めた経験を持つ、毅然とした人物として知られる。
ハント首相は、カメラに向かって力強く語り始めた。
「日本政府が中国に対して発した最後通牒について、オーストラリア連邦政府の立場を明確にいたします。
我が国は、2030年に日本と締結した豪日相互戦略パートナーシップ条約——通称『豪日同盟』——に基づき、日本の行動を全面的に支持します。
この条約は、日米相互戦略同盟条約と同様に、一方の国が戦争状態に入った場合、もう一方の国は政治・外交的な全面支持を行い、軍需物資の提供、最新情報の共有、後方支援を実施することを定めています。
自動参戦義務はありませんが、中国の脅威が増大した場合、参戦を検討する『抑止力条項』も明記されています。
オーストラリアは、この条約の精神に基づき、日本を全面的に支持いたします。
そして本日より、オーストラリア海軍は直ちに行動を開始します。
強襲揚陸艦紀伊級(オーストラリア海軍艦名シドニー・メルボルン)およびミサイル駆逐艦黒姫級(オーストラリア海軍艦名ハンター級)6隻を主力とする任務部隊を、ただちに東シナ海方面へ派遣いたします。」
記者会見場がどよめいた。
フラッシュが激しく焚かれ、記者たちの驚きの声が飛び交う。
その瞬間、中央指揮所にも同じような驚きのざわめきが広がった。
大泉進太郎国防大臣が思わず小さく声を漏らした。
「本気か……」
大野田総理はモニターをじっと見つめ、静かに立ち上がった。
彼女ははっきりとした声で語りかけた。
「ハント首相、ご決断に心より感謝いたします。
日本はオーストラリアのこの友好的な支援を決して忘れません。
私たちは共に、極東とインド太平洋の平和と安定を守るために、全力を尽くしましょう。」
映像はすぐに切り替わった。
オーストラリア東海岸のフリマントル軍港から、次々と出港する艦影が映し出された。
まず目に飛び込んできたのは、2隻の大型強襲揚陸艦——紀伊級だった。
前級であるキャンベラ級の老朽化による後継艦として導入されたこの艦は、日本と同じ設計でありながら、オーストラリア海軍の塗装と国旗を掲げ、堂々と海を切っていた。
その後方には、6隻のミサイル駆逐艦黒姫級が整然と隊列を組んで続いている。
もがみ型護衛艦の能力向上型の後継としてオーストラリアが導入したこれらの艦は、主砲のリニアカノンと先進的なレーダーシステムを備え、日本海軍の黒姫級とほぼ同等の能力を持っていた。
大泉進太郎国防大臣が、感嘆を込めて言った。
「オーストラリアの決断は、非常に心強いです。
紀伊級2隻と黒姫級6隻……これは単なる支援ではなく、実質的な共同戦力です。
日豪の艦艇が同じシステムで連携できるのは、大きなアドバンテージになります。」
大野田総理はモニターを見つめたまま、静かに、しかし力強く頷いた。
13年前、台湾有事で日本が孤立したとき、オーストラリアはすでに日本に近い立場を取っていた。
それが今、条約という形で結実し、実際の艦隊派遣という形になった。
大野田総理は胸の内で、静かに誓った。
(……何としても、中国へのリベンジを果たす。
オーストラリアのこの支援に、必ず応えなければならない)
彼女は深く息を吸い、指揮所にいる全員に向かって言った。
「オーストラリアの決断を無駄にしない。
我々は自らの手で、この戦いをやり抜く。」
中央指揮所の空気が、再び引き締まった。




