思い通りにいかない
私は両親の血を受け継いでいる。自分の子供を自分の為に利用する両親の血を。行動・思考・言葉。それらを私に任せず、自分達で決め、育てる。所謂、洗脳だ。
だけど、私の両親は下手だった。同じような事を言い続け、思い通りにいかなければ怒鳴るだけ。
だから、私は無意識の内に学んでいた。親の駄目な所を見て、聞いて、感じて、もっと上手くやれる方法を蓄積していた。今までは隅に追いやっていた要らぬ才能が今、この瞬間前面に出てきた。
「私、自分の物を誰かに取られるのが嫌なんです……! だ、だから、カナタ君に……! 歯止めが、効かなくなって……!!」
「……それが、俺にキスをした理由?」
信じられないくらい思い通りにいく。私がほんの少し後悔の側面を見せれば、カナタ君が推察して、気付く。カナタ君は普通の人より考える人だ。言葉と姿から、その人が何を考えて、何を企んでいるかを見抜く。さながら探偵だ。
だからこそ、引きずり込みやすい。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……!」
両手で顔を隠し、涙声で謝り続けた。これでカナタ君は私の涙声からでしか推察出来ない。きっとカナタ君はこれまでの私達のやり取りを思い出し、そこから何故私が泣きながら謝り続けているかを考える。どういう答えを導き出すかは重要じゃない。今重要なのは、カナタ君が私に興味を示し、私の事を考え、私の為に何かをする事。
「泣いてもいいけど、あんまり思いつめないで。花咲さんがどれだけ自分の所為だと決めつけても、指の傷も、昨日のキスも、事故だったんだよ。君は悪くないし、俺は君を責めるつもりはない」
そう言って、カナタ君は私の頭を撫で続けた。淡泊な返答だけど、根に優しさがあるのが分かる。これで私とカナタ君の間にあったわだかまりは消えた。
カナタ君は私の為に飲み物を用意してくれて、私の向かい側の椅子に座った。これで対等。主導権が私にあるだけの、対等な立場。
「改めて。さっきは色々と、ごめんなさい!」
「いやいや、もういいから。人間なら誰だって泣きたい時もあるし、不満を口に出して叫びたい時もある。だから気にしないでいいんだよ」
「でも、風邪をひいてる人に私は―――」
「ストップ。それ以上自分の事を悪く言うなら怒るよ? 気にしてないって言ってるんだから、花咲さんもさっきの自分の事は忘れて、いつも通りにしてよ。それに俺、風邪って言っても知恵熱だったし」
「……分かりました。もう大丈夫です!」
再確認する為だったとはいえ、これは余計だったかもしれない。心の中が見えないから不安になって二度聞きたくなってしまうけど、それは逆撫でしてしまう危険性がある。
いや、むしろカナタ君相手なら、そっちの方が良いのかもしれない。良くも悪くも、カナタ君は考えてから言葉を口にするタイプ。さっき私の言葉に被せるようにしてきたのは、同じような事を言われると判断したから。つまり、思考は働いてない。そこを突けば、もっとカナタ君を操り易いかも。
それから私達は他愛の無い話をして、その流れで連絡先を交換した。ただ交換するだけだとそこで終わってしまうから、すぐにメッセージを送った。そうして私とのメッセージのやり取りに慣れさせておく。
「花咲さん……俺は、花咲さんと直接喋る方が好きです」
「ッ!? そっか。そうだよね。せっかく目の前にいるんだもん。相手の姿をちゃんと見て話さないとね」
嬉しい誤算。そっか。カナタ君は私とお喋りするのが好きなんだ。
後日、私達はあの日の会話の中であったバイトの話をする為に、カフェに来た。以前は二人っきりで入る事を拒否された場所に、今は二人っきりでいる。ちょっと上手くいきすぎてる気がするけど、不安に思う必要は無い。
「……ねぇ、カナタ君。カナタ君は憶えてる? 前に私がこのカフェに誘った時、カナタ君に断られてるんだよ」
「あれは今と状況が違うよ。今はバイトの話を聞く為にいるんだ」
「でも、二人っきりな事に変わりないよ」
「……はぁ。花咲さんって、見た目ほど誠実な人じゃないみたいだね」
ホント、そうだね。こんなにも悪い人になるなんて、私にも分からなかった。
「……私ね。別にアオが好きだから告白したんじゃないの。アオは昔から女の子にモテて、中学の頃は毎月のように告白されてた。私もアオが好きだったけど、アオに告白する子みたいな好きじゃない」
「じゃあ、どうして恋人に?」
「誰かに取られるのが嫌だったから……」
そう口にした私をカナタ君は飲み物のストローを齧りながら観察していた。カナタ君は気付いてるのかな。私の事を考える時、瞳が楽しそうに動いている事を。あれこれ考えて、答えを導き出す事が楽しくて仕方ない証拠。
「私はアオの恋人として努力する。努力していれば、振られていったあの子達のように、アオを異性として好きになれると思ってた」
「……思ってた?」
あぁ、これはいけない快楽だ。体で誘惑するのなんて簡単で面白みが無い。精神的に自分の方へ引きずり込むからこそ、その人の手綱を自分が握ってると実感出来てドキドキする。指が勝手にカナタ君の指先に触れようとしてる。早くこの人と繋がりたいと求めてるんだ。
「カナタ君。私、カナタ君に―――」
その時、カナタ君の携帯に着信が入った。さっきまで私の指先にあったカナタ君の手は携帯を掴み、私にだけ興味を示していた瞳は携帯の画面に向けられている。握っていたはずの手綱は、カナタ君が携帯に送られてきたメッセージに微笑みを浮かべた瞬間、すり抜けていった。
「……リンちゃんから?」
「え? よく分かったね」
「分かるよ……だってカナタ君、凄く嬉しそうにしてるんだもん」
分かっていた。考えないようにしていただけで、分かってはいた。
カナタ君はもう、リンちゃんを好きになってる。今は男の子だと勘違いしていても、いずれ女の子だと気付いた時、好きに気付く。
なら、その前に。




