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君が私の心に痛みをくれる

 私が産まれた時、両親は私の人生を奪った。何の疑問も違和感も覚えずに従い育った私は、同年代の男女からおかしく見えただろう。


 そんな私の人生に色がついたのは、カナタ君とちゃんと出会ってからすぐの事だった。


「もしペアが決まってないなら、私と組まない?」


 美術の授業。互いの絵を描き合う相手に、彼を選んだ。自然と足がカナタ君の方へ進んだんだ。昨日声を掛けてくれた事をちゃんと感謝したいというのもあったが、この時から私はカナタ君に引っ張られる磁石になっていた。


 絵を描きながら、カナタ君を見つめる。カナタ君は真剣な表情で絵を描いてるけど、一度だって私を見ようとしない。それが凄く、寂しかった。


 そんな私の寂しさに気付いたのか、カナタ君は一瞬だけ私を見た。まばたきをするようなほんの一瞬だけど、凄く安心した。


 絵を描き終えた私達は、せっかくだから互いの絵を見せ合う事にした。私の絵は何の面白味の無い絵。上手くも下手でもないただの絵。


 それに比べて、カナタ君の絵は個性的だった。相手の顔を描く授業のはずなのに、カナタ君が描いたのは髪の毛と目だけ。それも今の私じゃなく、髪を切る前の私の髪だ。  


「風になびいた花咲さんの髪が凄く綺麗だったんだ。そして昨日。花咲さんの瞳を見て「あぁ、この人は目も綺麗なんだ」って思ったんだ」


 私だけじゃなかった。カナタ君も、この人も私に惹かれているんだ。描かれた長い髪からして、去年からずっと私を魅力的に思っていたんだ。


 そっか。私だけじゃ、ないんだ。


 何故だろう。私を【可愛い】とか【美人】とか言う人は今まで沢山いたけど、カナタ君は違う。彼は私をちゃんと見てくれる。下心とか、そういう下劣なモノを挟まず、とても純粋な気持ちで。


 嬉しかった。誰かにちゃんと見てもらえる事が、こんなにも嬉しい気持ちになるなんて知らなかった。これが、女心というものなのだろうか。


「ねぇ、カナタ君。もし、またペアで組んで描く事があったら、次も私とペアになって。カナタ君の絵。やっぱり好きだから」


 風野カナタ君。きっと彼は、自分の人生を奪われた私を憐れに思った神様が巡り合わせてくれた運命の人なんだ。


「花咲さん。友達であっても、こういう事は駄目だよ。君が良くても、俺が嫌だ。君だって嫌だろ。もし君の恋人が自分の知らない内に異性と二人で遊んでいたら」


 私は思い上がっていた。救われる時が来たのだと舞い上がっていた。休日の日、たまたま見かけたカナタ君に引っ付いて、もっと仲良くなろうとしてしまった。


 けれど、この時のカナタ君は私の事情など知る由も無い。この時のカナタ君からすれば、私が恋人以外の別の男を求めているように見えていたんだろう。今思えば、あまりにも無計画で軽率な行動と思考だった。私をちゃんと見てくれたとはいえ、知り合ったばかりの男子が私の全てを知ってるわけじゃない。


 それはそうなんだが、それでもやっぱり、裏切られた気持ちになった。この日は、部屋でずっと泣いていた。今までどんなに怒られても泣かなかったのに、この日は泣き止みそうになかった。


 泣いて。


 泣いて。


 泣き疲れた私は気付いた。

 

「友達……そっか、友達か……! カナタ君、私を邪険にしてなかったんだ……!」


 あれは怒鳴ったのではなく、説教。怒っていたのは私の間違いに対する指摘。だからまだ、差し出してくれた救いの手は差し出されたまま。


「友達なら、仲直りしないとね……!」


 翌日。放課後の誰もいなくなった教室で、私達は仲直りをした。難しい事はせず、ただ一緒にチョコレートを食べながら、自然と仲を取り戻した。会話も弾み、カナタ君も笑ってくれるようになった。 


 カナタ君は私を友達だと思ってる。でも私はそれ以上になりたい。だから私は、この和んだ空気を利用して踏み込んだ。まずは恋人役のアオを利用して、恋愛についての話題を切り出し、流れに沿って―――


「―――じゃあ、もし私がカナタ君に告白したら?」


 お遊び感覚の声色で、カナタ君の想いを聞きたい本心で、私は言った。


 するとカナタ君は、あれこれと語り出し、最終的には。


「君の幼馴染が本当に君の事が好きなら、きっと君をまた惚れさせるから」


 親切で、優しく、励ますように。カナタ君は私の心を傷付けた。


 でも、不思議と涙が込み上げてくる事はなかった。こんなにも痛いはずなのに、ある種の快楽のような気持ちが芽生えていた。


 私の心は、私は、カナタ君によって生を感じるようになった。

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