夢の終わり
食事が終わり、いよいよ本題を話す時がきた。
「リン。しばらくの間、俺と花咲さんを家に置いてくれないか?」
単刀直入だが、いちいち説明してからだと回りくどいだけ。
するとリンは、親指と人差し指で丸を作った。オッケーサインで合ってるだろうか。
「いいのか?」
確認すると、声を出せないリンは紙に言葉を書いた。
【いいですよ】
なんとも呆気ないが、了承を貰えてホッとした。時刻は午後七時になろうかというところ。外は暗く、風と共に雪が舞っている。外に出ずとも寒いのが目に見える。
「ちなみに、どれくらい滞在してもいいかな?」
【いつまでも】
「おぉ、太っ腹」
「とりあえず安心だね。一時はどうなるかと思ったよ!」
【花咲先輩は明日か明後日に出て行ってください】
「え、なんで?」
「そりゃ騒がしいからでしょ」
「分かってないな、二人共。どんな場でも賑やかしは必要なんだよ」
「自己アピールし始めたね。じゃあ花咲さんが居る利点を答えてもらおうか」
「自分は永住決定してるから余裕見せちゃってさ……! 私の利点ですか。それはもちろん…………愛でたくなる可愛さ、とかでしょうか?」
「お帰りください。合否は追って知らせます」
「それ駄目な時のやつだ……え、本当に駄目なの? こんな事言ったらあれだけど、一人も二人も変わんないよ?」
その言葉を耳にし、リンは紙に書いた言葉を消し始めた。確かにこれから世話になる部屋の主に対して言う言葉ではない。今すぐ部屋から追い出されても擁護出来ない。
しかし、俺の旅に付き合わせた結果こうなってるのだから、俺にも負い目はある。ここは俺からもリンに頼むか。
そう思った矢先、リンが紙に書いた言葉を見せた。
【別に居てもいいです】
「あ、ホント!? いいの!? いいんだね!?」
【ただし】
「ただ―――ただし?」
【明日と明後日の二日間は、カナタ先輩と二人っきりにさせてください】
リンはそう書かれた紙で恥じらう顔を隠しながら俺達に見せた。それを見た花咲さんは、また何かいらない事を言うのかと思ったが、意外にも文句は言わず、むしろ微笑んだ。
「……そうだよね。ようやく会えたもんね」
花咲さんは俺とリンを交互に見ると、紅茶を飲んだ。俺が言うのも変だが、同じ想いを抱えた花咲さんだからこそ、俺と二人っきりになりたいリンの気持ちを共感出来たのだろう。
二人の間に、自分は邪魔だと。
これが合ってるかどうかは分からない。だが、もしこの通りの考えなら、本当にそれでいいのだろうか。仲間外れみたいで、なんだか嫌じゃないか。
「カナタ君。明日と明後日の二日間は、リンちゃんと何をするつもり?」
「え? そうだな……色々とやりたい事も、行きたい場所もあるけど。やっぱりまずは、話したいかな。今まで不安にさせた謝罪と、会えなかった間に起きた事。そうしてわだかまりを無くした後、改めて何をしたいかを聞くよ」
「ふ~ん。だってさリンちゃん。それでいい?」
【はい】
「紙で会話すると、なんだかシュールだね。まだ声は出せない?」
【喋れはします】
「じゃあ、なんで紙でやり取りしてんだ?」
【声が可愛くないので】
「カナタ君さ~! 君って奴は本当に女心ってやつを分かってないね~!」
「えぇ……まぁ、一旦それは置いといてさ。明日明後日の二日間。花咲さんを何処に行かせようか。宿って言ったって、もう俺達金ほとんど持ってないし」
「あーあ! ならやっぱりここに居るしかないかー! 本当は二人っきりにさせてあげたかったけど、お金が無いんじゃ仕方ないよねー!」
すると、席から立ち上がったリンは鍵の掛かった棚から何かを取り出すと、それを花咲さんの前に出した。それは封筒であり、手紙が入っているにしては少し厚みがある。
中身が何なのかは分からないが、中を覗いた花咲さんの目が大きく見開かれた事から察するに、二日間の小遣いだろう。目が飛び出そうになるなんて、一体どれくらい渡されたんだろうか。
こちら側からリンの表情は見えないものの、二人は見つめ合うと、やがて花咲さんがフッと笑った。
「……そうだよね」
花咲さんが呟いたその言葉はリンに、というより、自分に言い聞かせているように思えた。




