会話が絶えない食卓
眠るリンを撫でていると、花咲さんが晩ご飯が出来たと呼んだ。この小動物を思わせる可愛らしい寝顔のリンを起こすのは心苦しいが、食事も大事。
「リン。起きて」
リンはモゾリと体を縮こませると、つむじを俺の顎にグリグリ押し付けてきた。これはどういうボディランゲージだろうか。
リンを抱いたまま体を起こすと、食卓のテーブルでは花咲さんがこっちを凝視しながら食器類を並べていた。いい加減にしろとでも言いたげな眼だ。
「いい加減にイチャイチャするのやめて」
「おぉ、当たってた」
「まったく! 昨日までカナタ君を独占出来たのに……!」
「まぁまぁ。それより何作ったの?」
「冷蔵庫にあんまり食材が無かったけど、お米と卵があったからオムライス作ったよ。リンちゃんには消化に良い物をって思って、お粥作ったの。さぁ、リンちゃんを連れてきて」
ちょうどその時、リンが目を覚ました。前髪で隠されていない片目には生気が宿っており、俺を見て微笑みを浮かべた。身体的にはまだでも、精神的には回復したようだ。あとはたらふく飯を食わせて太らせるだけ。どうせなら、以前よりも肉をつけさせてやろうか。
リンを支えながらテーブルに向かうと、席に座らせる直前でリンを花咲さんに奪われた。
「リンちゃんは私の隣に座らせるから」
「なんでさ?」
「だってカナタ君、ご飯を食べさせるの下手そうだし」
「上手い下手ってあるの? ただスプーンですくって口に突っ込むだけでしょ」
「それ聞いてハッキリした。私がリンちゃんをお世話する。リンちゃんも私に食べさせられる方が良いもんね!」
リンは明らかに不満そうにしていたが、俺に食べさせられるのを想像したのか、急ぐように花咲さんに身を寄せた。そんなに怖いのか。
「カナタ君。リンちゃん奪っちゃってごめんね?」
そう言って、花咲さんは勝ち誇った表情で俺を挑発した。花咲さんが自分で物を食えなくなった時は、俺が食べさせてやろう。
席に座り、花咲さんが作ったオムライスを見た。包んである卵は半熟で輝いている。
「ケチャップはセルフで。それじゃあ、召し上がれ」
まずは何もつけずにそのまま食べてみた。それが正解だった。中のチキンライスがケチャップライスと言える程にケチャップの味が強く、これ以上ケチャップを足せば、最早ケチャップだ。それ以外は特に不満点も無く、普通に美味しいオムライス。
二人の様子をうかがうと、花咲さんは自分のオムライスに手を付けず、ひたすらリンにお粥を食べさせていた。これまで散々リンに世話を焼かれていた花咲さんが逆の立場になり、新鮮でありながら微笑ましい光景だ。
「なんだか、姉妹みたいだな」
「そう見える? まぁ、確かにリンちゃんは妹みたいに可愛いし―――」
「え?」
「え?」
「いや、花咲さんは妹側でしょ」
「なんで? 私、年上だよ?」
「たかが一歳差じゃん」
「じゃあ言ってよ理由をさ! 私の何処に妹要素があるの!」
「今までを振り返れば、花咲さんが姉なわけないじゃん」
「妹に世話を焼かれる駄目な姉だっているよ!」
「自分で駄目な人間だって認めてるんだ……」
「リンちゃんと比べたら誰だって駄目人間だよ!」
「それはそう」
ちょっと心の声を漏らしただけで言い争いになるなんて。ひょっとしたら俺と花咲さんって相性が悪いのか? いや、これは単に俺が悪いか。
「フフ……フフフ……!」
笑い声が聞こえた。花咲さんでもなければ、俺でもない。
見ると、リンが笑っていた。左右に揺れながらご機嫌に笑っていた。その姿に、なんだか色々と馬鹿馬鹿しくなった。
「なんか、色々ごめんな。少しからかい過ぎたよ」
「謝らなくていいよ。別に怒ってなかったら。さぁ、改めて食べましょうか!」
「そうだね……にしてもケチャップの主張強いな」
「はいカッチーン」




