第二ピリオド:開始
目を開けると同じ森ではあるが、全く違う場所にいた。あたりを見回してみるとクランの他のメンバーがいた。
「ふむ、さっきと景色があまり変わらないけど場所は全く違うようだね。」
寂れた錆さんが喋りながら見つめる方角にはさっきまでいた巨樹が遠くに見えた。
「方角は分かりますか。」
「うーん、なあドールメーカーわかるかい。」
早速アイテムストレージを確認していたドールメーカさんは寂れた錆さんに聞かれると、方位磁石を取り出して方位の確認を行った。
「そうだねえ、方角はあの巨樹から南側最初の地点とは正反対みたいだねえ。」
「それで、どうしますか。」
ハンドインデッドの問いかけに全員が黙った。
「ひとまず陣地を張りなおそうかねえ。ハンド君、夜ちゃん、ストレージを見てみなあ、最初に仕掛けた罠の分は元通りになっていると思うからさあ。」
ドールメーカーさんに言われるまま2人は所持品の確認を行った。
「ほんとね。」
「うん。」
「とういことは、今回のイベントではストレージから取り出したアイテムは消費されなければ一定時間で手元に戻るということか。」
「つまりこのイベントでは罠は張り放題というわけかあ。」
ドールメーカーさんは悪い顔をしていた。
「罠に誰も引っかからなければね。罠は節度を守って仕掛けてね。」
寂れた錆さんが釘を刺していた。しかし、一度引っかかると致死率100%の罠に節度なんて存在するのだろうか。
「じゃあ行ってくるよ。」
ハンドインデッドと、夜・ウィッチを連れて再び罠を仕掛けに行った。
「じゃあ僕たちは何をしてますか。」
特にやることが思いつかなかったので装備を換装していた寂れた錆さんに話しかけた。
「そうだね、さっき奴らから剝ぎ取った素材でも見ていようかと思ったけど…久しぶりに組み手でもするかい。」
「いいんですか。」
「今は特にやらなければいけないことはないからね。」
久々に寂れた錆さんが相手してくれるので思わず胸が高鳴った。
「それに昨日のあいつから新しい戦法を学んだみたいだし、是非見せてくれよ。」
「ひゃい!」
思わず噛んでしまった。
急所に当たっても致命的な一撃にならないように、装備を外して素手のまま互いに向き合った。
「じゃあ、始めようか。」
「はい。」
寂れた錆さんの合図とともに、組手という名の実験が始まった。
筋力による速度強化に慣れるためにまずはシンプルに直線的な攻撃を行ってみることにした。
逆体で構えた状態から地面をけりだし、錆さんの体を打ち抜くイメージで左腕を打ち出した。錆さんはそれを余裕のある状態で躱した。左に交わしたので、右足を軸にして勢いのまま左脚で回し蹴りを繰り出した。そのまま避けるかと思っていたが、錆さんはそのまま受け取めた。
「うん、なるほど。確かに君のヒット&アウェイの戦い方だと、こっちの方がいいのかもね。」
そう言って俺の足を離すと同時に鳩尾に強烈な一撃を放ってきた。かなり威力強かったらしく、痛みは感じないが鳩尾の部分だけ感覚がなかった。
「ま、こんな感じで攻撃をいなされて反撃された時も想定しないといけないね。」
「そ、そうですね。」
上手く動かない体を起こしながらどうにか返事をした。
その後、3人が帰ってくるまで組手は続いた。ちなみに俺からの攻撃は錆さんがカウンターを狙うためにわざと受けたもの以外、一発も当たらなかった。錆さんいわく、
「新しい戦い方を実践し始めたばっかりなんだから気にしなくてもいいよ。」
だとのこと。
「久しぶりだねえ、2人が組手をやるなんて。」
3人が帰ってきた。
「思ったよりも遅かったですね。」
時間を確認すると、1時間以上たっていた。てっきり30分くらいで仕掛け終わると思っていたが、
「仕掛けが発動しなければアイテムは元に戻ると判明したから、仕掛ける罠の量を結構増やしたんだ。」
答えたのはハンドインデッドだった。
「そうそう、だからつい気合がはいちゃってねえ。」
ドールメーカーさんが嬉しそうに笑っていると、横の2人が補足をしてきた。
「多分、これまで仕掛けた罠の中で一番の難易度だと思う。」
「そうね。攻略会議した方がいいわよ。」
何故か仕掛けた本人たちすら引くほどの難しさらしい。
「なんで作った本人たちの顔が死んでいるのさ。」
2人は乾いた笑いを見せながら、
「複雑に作りすぎて、私たちが挑んでも確実に死ぬわ。」
「そうだね。」
何故か納得してしまった。
それからというもの、2人の組手の相手をする錆さんを見ながら、ドールメーカーさんと簡易的な食事を作った。たまに匂いにつられたプレイヤーや、エネミーの叫び声が聞こえてきた。
「あ、13人目だ。」
「そうね。あんまりの規模だからプレイヤー間でここの情報が共有されているみたい。フレンドからチャットで連絡きてたわ。」
「え、もしかして攻略隊組まれてる?」
「みたいよ。」
「いいなあ。俺も加わりたかったなあ。」
「いや、やめた方がいいよ。絶対に死ぬから。」
「ええ、ドールメーカーさんの凝り性をなめていたわ。」
俺とハンドインデッドと、夜・ウィッチはさっきのレイドで消耗したアイテムを調合して補充していた。ドールメーカーさんは仮眠をとっていた。正直ゲームの中でやって意味があるのかは分からない。そして寂れた錆さんは笑顔で声のする方に向かって時限式爆弾を投擲していた。さっきから聞こえてくるプレイヤーの叫び声の原因はこれである。本人曰く暇つぶしだそうだ。
その後何分か経った後、チャット通話の通知がけたたましく鳴っていた。チャット通話のコール音は同時に掛けてきている人数によって変化するため、かなりの数のプレイヤーから電話を掛けられているみたいだ。
彼はそのうちの2つの通話に出ていた。
『何やってんだお前ら。』
『本当ニャ。』
あの2人だった。




