幕間:創造者たちの歓談
イベントが開始されてから数十分、カラクションではTASの初使用により、不測の事態に備えて、技術班の全員がこのゲームのオンライン作業室にログインしていた。その中には技術班ではないものの、原作者もログインしていた。
「ねえねえ、ここのモニターもっと大きく表示できないの。」
「無茶言わないでくださいよ。ただでさえ、TAS使って、情報処理がギリギリなんですよ。」
「そうか。」
モニターでイベントの様子を観ていた木卵は近くの技術班の1人に絡んでいた。
「それはそうと、お前らの班長まだ来ねえの。」
「なんでもデバッグで新しいバグが見つかったそうなので、それを改善してから来るそうです。」
「まじめだなあいつも、次のアップデートまだまだ先だろうに。」
お前は仕事しろよと思う一同であった。
「俺はプログラミングは触ったことないから全くの畑違いだからよ、専門家のお前たちに期待してるぜ。」
「「「「「(ぐっ、反則だぞ。)」」」」」
何だかんだで仲の良い会社の社員たちであった。
「遅れてすまない、ってお前も来ていたのかモグラ。」
「やあ、蛇。バグは改善できたかい。」
木卵と互いにあだ名で呼び合っているのは、蝮田秀明。技術班の班長である。
「どうにか終わらせてきたよ。このイベントの関わるものじゃなかったことが幸いだったよ。それで、今の状況は。」
「そうだね。とくに盤面は動いていないよ。拠点の守りを固めるもの、探索を行うもの。一番驚いたのは木を伐採し始めた奴らかな。」
「そんな奴いるのか、特に問題でもないからいいか。まだあいつとエンカしたプレイヤーはいないんだな。」
「そうだよ、最初はあいつ以外はプレイヤーに遭遇しない設定にしたんだからまだ時間はかかるだろ。」
木卵は何かを口に運ぼうとした。
「そういや、オンラインだったなここは。」
「ああ、TASの影響はプレイヤーたちではなく、私たちも受けていること自覚していた方がいい。」
技術班班長の一声で、その場の空気が固まった。
「おいおい、わかっちゃいるけどよ、そこら辺のリスクは承知でここにいる奴らを脅すなよ。」
木卵は笑いながら返答した。
「…すまない、技術班の人間に対しての言葉ではなかったのだが、俺が浅慮だった。リスクを承知で来てもらっているんだ、その分の報酬は払う。このイベントが終わってからのボーナスは期待していてくれ。」
他の技術班のスタッフたちは大いに盛り上がった。
「あと、このイベントが終わったら一週間の体調の様子を提出してくれ。今後のイベントでのTASの使用頻度の参考にするから。」
各所から了承の声が聞こえてきた。それを聞くと、秀明は木卵の隣に座ってモニターを眺め始めた。
「しかしよ蛇、そのボーナスの予算はどこから持ってくるんだよ。」
「そこは鷹を説得して出させるさ。新エリア開放で、課金アイテムの購入は盛んだ。加えて、これからの季節、学生は基本的に夏休みだそこの新規参入も加われば、それなりの収益になるだろう。それまでに評判を落とさないように、今回のイベントは成功させなくてはいけない。」
ゲ〇ドウポーズを組みながら、技術班班長は語った。
「じゃあ、俺の希望とはいえあいつらをこのイベントで実装するのやめておいた方が良かったんじゃないのか。」
椅子に体重を預けながら木卵は問いかける。
「大丈夫だ。前回のレイド戦、つまりは4つ目のエリアを開放するためにボスを倒した時、彼らの平均レベルは僕たちが想定していたよりも10は高かった。あのボス相手に半数以上の生存者を残していたから、下手したら今回実装したエネミーも余裕を持って相手できるだろう。もしかしたら、クラン1つで一頭の討伐できるかもしれないな。」
「確かに上位層は出来るだろう。しかし、今回参加プレイヤーのレベルの中央値はあいつの討伐の推奨レベルよりも15も低い。」
「そうだな。」
「そしてあのプレイヤー達が協力するのはあまり想像できないと。」
「なんで実装したの。」
「お前が言うか。」
秀明は若干呆れていた。
「俺の想定じゃよ、今回実装したあいつらとのレイドバトルの延長線上に4体目のエリアボスだったんだけどよ、プレイヤーがついこの間クリアしてしまったからなあ。」
「あれは確かに想定外だった。」
ため息をつく2人。
「ひとまず今回はプレイヤーの強化兼、あいつらを消化するためのイベントというわけだ。」
「俺消化試合って嫌いなんだよなあ。試合ってのは双方が勝つか負けるかの瀬戸際に追い詰められているから面白いのに。」
「その試合に臨むのは彼らだ。運営であるこちらは準備をしても、いざ試合になったら手を出すことはでいない。」
「分かってるって。あー早く接敵しないかなあ。」
木卵は椅子を回転させながらぼやいた。
「全くこいつは。」
5秒後事態は急変した。
「班長、戦闘状態に入りました。」
技術班の1人が報告をしてきた。
「どこのクランだ。」
「ニャイツ・オブ・ラウンズです。」
「は?」
秀明は固まり、一方の木卵は立ち上がって、
「来た来た来たあ!盛り上がってきたあ!」
テンションが授業が終わった学生のように椅子から立ち上がった。
「戦闘はどんな様子だ。」
秀明は報告してきた班員の席に寄った。
「それが、一方的にニャイツ・オブ・ラウンズがやられています。かろうじて1人も脱落者を出していませんが。」
「意外だな。」
「そうですね。彼らは前回のレイド戦でも脱落者を1人も出していなかったので。」
「意外でもないだろ。」
2人が後ろを向くと、さっきまでのテンションはどうしたのか冷静に分析する木卵がいた。
「どういうことだ。」
「あの猫騎士団の奴らは基本的にニャーサーの指揮能力と、ニャ―リンの完璧な状況分析から使われるバフによって支えられている。奴の急襲から先頭に入ったみたいだし、まだ場が整っていないんだよ。それに、今回の熱帯林では地面がぬかるんでいて重量の大きい装備を着用しているあいつらにはきついだろ。例え急造で軽量装備にしても、普段のダメージ前提の戦闘方法じゃHPが持たない。まあ、どっかであいつの体制を崩せれば火力で一気に倒せると思うがな。」
木卵の解説を聞いた秀明は、
「流石に普段デバックついでにこのゲームで遊んでいるているだけはあるな。で、お前はどうなると思うこの後の展開。」
「さあ?」
木卵は肩を竦めた。
「おい、モグラ。」
「まあ慌てんなって。スポーツ観戦もそうだが、試合の結果を考えるよりもその瞬間に起きていることを楽しもうぜ。」
そう言うと、席に戻っていった。
「全く。すまん、メインモニターにこの戦闘映像を映してくれ。」
「分かりました。」
そう言うと、その班員は機材を操作し、様々な映像が流れていたメインモニターの映像をニャイツ・オブ・ラウンズの戦闘に切り替えた。
「さあてこの後の展開を楽しみますか。っと、その前にトイレ。」
そう言って木卵は一度ログアウトした。
「トイレ位先に行っておけよ。よしお前ら、何が起こってもいいように準備しておけよ。多分あのクランが勝利した後は、2-β段階にいこうする。」
各所から返事が返ってきた。
そしてその瞬間が起こった時、木卵はまだ帰ってきていなかった。
デバック班は元々いますが、それとは別に木卵がゲームを楽しんでいるついでで色々検証して回っています。




