ロマン。
バイトが決まりました。よかったです。
ドールメーカーさんがやられた。彼女は近接が僕らの中で一番弱かったけれどもそれでも防御障壁を張っていたはずなのに、何の抵抗もなく男の持つ刃は彼女の喉を貫通した。
「魔術無効化の効果で持ってんのかあの妙な刃物は。」
顎に手を当てて旅人さんが呟いた。
「そうですね。しかしそういった効果は対象に接触した後に発動するので、あの刃が障壁と接触してノータイムで彼女の首を貫くことは出来ないでしょう。」
反応したのは寂れた錆さんだった。この人はこのゲームの細かい仕様まで見ているので、この手の疑問にはすぐに答えることが出来るのである。
「それなら障壁貫通はどうニャ。」
「あり得ません。」
即答であった。
「ど、どうしてニャ。」
「このゲームは効果が発動した時に何かしらエフェクトでそれを表現することが多いです。無効化に限ってはそのエフェクトが出ないので、そのためよく初見殺しだといわれており、対人戦では嫌われています。それに対して貫通のエフェクトはこのゲームでもトップクラスに分かりやすいエフェクトなので少なくてもうちのメンバーが見逃すことはないでしょう。」
「そ、そうか。」
説明に圧倒されて語尾を付け忘れているニャーサーさんであった。
「それじゃあ、いってくるさ。一応リスポーン地点この街に変更したけど、俺からの情報はあまり期待するなよ坊主。」
「了解です。それじゃあ、敵討ち頑張ってください。」
「ふんっ、そんなんじゃねえよ。」
後頭部を掻きながら旅人さんは返事を返してきた。
「次はあなたですか。見たところその服装、遠距離専門ですか。」
黒コートの男は旅人の全身を見て簡単な考察を述べた。
「まあ、そんなもんだ。」
「やめておきますか。あなたじゃ勝てないでしょ。」
「それも良いが、これは俺だけの戦いじゃないのでな。後ろの奴が勝てるようにお前の本気を少しでも見せておきたいのでな。」
「それを行ってはいけないのでは?」
数秒2人の間に沈黙が流れた。
「…始めるか。」
「…そうですね。」
この会話を聞いていた観客も微妙な顔をしたまま戦いが始まった。
旅人さんは左右の太腿に備え付けていた二丁の拳銃を手に持つと黒コートの男に向かって駆け出した。駆けながらも正確に敵に球を打ち込んでいった。その弾を男は手に持った刃で難なく弾いていた。そして距離が5メートルと迫った時、男の刃が旅人に迫る。それを彼は左手に装着した手甲で受け止めた。そして右手で持った拳銃でほぼゼロ距離から敵に球を打ち込んだ。しかし、ダメージを受けたのは弾を打ち込んだはずの旅人であった。
「これってあのモンスターの特殊ギミックですよね。」
「ああ、これは"透過"だね。」
「あのアンノウンとかいう黒獣の持っていた性質だったのでは。」
少し興奮気味にニャーサーさんは話に喰いついてきた。今このゲームのプレイヤーの中で奴の素材を唯一所有しているクランの長なので、当然といえば当然であった。
「あの時は確か愛剣に物理バフをかけてその上に魔力エンチャントを付与してどうにか切断したニャ。」
得意げに語っているのでおもわず指摘した。
「あれ、そのバフ掛けたのはうちの戦闘狂2人でしたよね。」
「…。」
「半分くらい譲ってくれてもいいですよね?」
「…。」
「オリハルコンの先行発見の言い訳は言わせないっすよ。あれからニャーサーさんたちにも教えたんすよ。」
ぐうの音も言わせる気はなかった。
「ぐう。」
言いやがったこの猫野郎。
「まあまあ、2人とも相手の分析をしましょうよ。」
「そうニャ。勝てないと我々もまあまあやばいからニャ。」
「正直私も忘れていましたが、やはりあの素材は少し私たちにも譲ってくださいね。」
援護射撃かと思われた寂れた錆さんの言葉は、実は俺よりも鋭い釘を刺すための甘言であった。
「この戦いで買ったらニャ。」
「ようし、スカイ君何が何でも勝とうか。」
「はい!」
「チッ。」
試合の雰囲気に反して盛り上がっている3人であった。
「何やってんだあの3人。」
旅人は自分の左半身が切られて、左腕の感覚がなくなったことを感じながら心の中で二重にキレていた。一つは応援席の盛り上がり、あと一つは、
「おい、なんで今俺にとどめを刺さなかった。お前のスピードなら俺の牽制の攻撃も捌いて追撃できただろう。」
相手が自分井とどめを刺さなかったことであった。
「あなたからは柔の使い方を学びたかったので。」
「そうか。」
納得はしつつも怒りは収まっていなかった。
「あなたこそ、その身のこなしなら銃を使わない方が私に確実にダメージを入れれるでしょうに。手加減して勝てる敵ではないですよ。私は。」
「いやなに、俺は別にこの戦いで勝ちにこだわっているわけじゃないからよ。ロマンのある戦い方を選んでいるってわけよ。」
「それで近距離での銃ですか。」
「そうだ。これはガン=カタって言ってなとある映画で使用されていた戦闘方なんだよ。」
「実用性は低いのでは。」
「だからこそのロマンだろ。」
「ふむ。」
男は顎に手を当てて思考に浸る。その間に旅人はアイテムで回復を図る。
「弾丸の補充はどうなさっているのですか。」
「ああ、それか。それなら体内の魔力を銃に流し込んで弾倉内で弾丸を創っているさ。」
それを聞いて男は目を大きく開いた。
「なんとそれはかなりの魔力操作の精密性がとわれるのでは。」
「そうだな。それなりに練習はしたさ。で、どうする。俺は降参しないけど。」
「そうですか。なら倒すしかありませんね。」
男はそう言うと、刃物を旅人に向かって投擲した。それに対して彼は銃を構えて弾丸を打ち出した。そして正確に刃物を弾いて残った弾丸は黒コートの男に向かった。男は透過を発動して駆け出した。しかし、弾丸すべてが胴体にすべて命中した。
「ぐふっ。」
衝撃で男は後ろによろめいた。旅人は男に銃を向けつつ、ゆっくりとそして確実に男に近づいて行った。
「まさか弾丸の中にただ圧縮した魔力を詰めていたとは。」
「まあな。弾丸自体を圧縮した魔力にしても良かったのだけど、土壇場避けられるんじゃないかと感じたからな。」
「なるほど。」
「あのさ、殺したくないから降参してくれないか。」
「そうですね、それは最後の悪あがきをしてからにしましょう。」
その言葉と同時に旅人は弾丸を打ち込んだ。男はそれを魔力所壁で防いだ。そして代わりに旅人の胸に大きな衝撃が走った。そこには地面に落ちたはずの男の刃が刺さっていた。
「おいおい、武器の遠隔操作は初めてだな。」
「これはあまり見せたくなかったのですけど。あなたに感謝の意を込めて。」
「それはありがてえことだね。」
そういった旅人はそのまま倒れて姿を消した。
「あー、負けたか。…くそっ。」
旅人は思わずリスポーン地点の地面に拳を叩きつけた。
「なんだあ、やっぱり負けたのかあ。」
「なんでてめえがここにいんだよ。」
「なに、あんたが勝てるとは思わなかったからよ。」
「そうか。」
「いじけんなよ。」
「いじけてねえよ。俺ももう25だぜ。いい大人が泣く訳ないだろ。」
「その割にはこっち向かないじゃない。」
「お前のニヤけ顔を見たねえだけだよ。」
「ふうん。まあいいや。」
ドールメーカーは旅人の後ろに座り込んだ。
「なんだよ。」
「復活地点から走ってきたのよ。少しは休みたいのよ。」
「スタミナ薬飲めばいいだろ。」
「うるさいわね。どうせすぐには行かないんでしょ。あんたも。」
「まあ。」
「ほら。行く気が出てきたら言いなさい。」
「ああ。すまんな。」
「何よ今更。あんたを選んだ時から地獄まで付き合うって言ったじゃない。」
「そうだな。」
2人の間に再び沈黙が流れ出した。そして数十分後に会場に戻った二人に驚きの結果が知らされたのであった。
行動の精密性はその行動の試行回数の回数に比例します。もちろん天井はありますが。旅人の場合、魔力の圧縮又は物質への変換を実用段階まで持ってくるのに、半年かかっています。




