トウタVS野盗集団01
夕方になると少し風が強くなって来た。ここ西区エリアは俺を含む前線部隊班と第7護衛班が担当となり、防衛における最後の調整に入っていた。
カミュールさんたちは南区の担当と聞いている。そして、この時間になって急に南東からの風向きに変わった。おそらく南区であれば、敵の匂いや気配が風に乗って来て、割と動向がわかりやすいだろう。さらにアギト君の記憶魔法【レコード】と併用すれば、早急に敵を見つけるとが可能なはずだ。
それに対して西区は向かい風扱いになる。なので敵の匂いや気配を敷地外へと吹き払ってしまい、状況的には外部敵からの早期発見には不利なエリアとなる可能性が高くなってしまった。
そのため街全体を囲う水掘りには、急遽一定間隔で護衛班が配備されることになった。問題は正攻法の西門から責められた時、前線部隊だけでどこまで対処出来るか⁉︎ 他のエリアは多少の侵入は許しても、即座に住民への被害はないが、ここ西門だけは瀬戸際で食い止めなければならない。
何故ならば、直前の伝達魔法【ネクストコール】による最新情報によると、西区での住民避難が思った以上に遅れているらしいのだ。仮に今、西門から内部に侵入されては甚大な被害が懸念される。
実は西区担当の前線部隊長との事前打ち合わせで数パターンの編成を俺は相談していた。そして今日の戦況を鑑みて、俺単独での前方警備+後方に主力である護衛班配備というフォーメーションにしてもらった。
……この構成であれば前線部隊は逃げ遅れた住民の護衛もカバー出来る。オレとしても単独で一番前ならば向かい風を利用出来る。俺の混血魔法【ミリオンブラッド】の光の粒を風に乗せる事が出来れば、その動きは通常の移動速度に風速が加わり、より早くより縦横無尽な変化に飛んだ魔法軌道が期待出来るはず。何より、多勢に無勢と言われても、単独では無謀と言われても、自然や地形といった『ホームグラウンドの利』を活用すれば充分に集団と渡り合える事が出来るという事を証明し、リンカーの存在意義をアピールしたい意図もあった。
緊張なのか⁉︎ 不安なのか⁉︎ 俺自身、珍しく興奮を抑えきれないでいる。ところがこんな状況下においても、ラルは背中で平然と寝ている。そのことが俺を一気に冷静にさせてくれた。平常心に戻るきっかけになった。
……なるほど、ミストさんはここまで計算していたのかもしれない。初陣で興奮するからこそ、ラルの存在で精神のニュートラルを保てるようにする。勢いやノリだけでは自分はおろか周囲すら守ることは出来ない。ミストさんに感謝しつつ、自身の不甲斐なさを反省した。そしてもう一度、ラルの寝顔を見ながら気を引き締め直した。
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西区の警備はすでに整った。それに伴い、この近辺の避難もほぼ完了しつつある。これでほぼ住民を巻き込んだ奇襲は出来ないだろう。残りの敵の出方は、分散か一点突破かのどちらかになるはずだ。周囲は護衛班、後方は前線部隊に任せるとして、俺は俺の仕事をやるだけ。……そんな決意を固めた矢先に、西門の左右の水掘りで同時に魔法交戦する音が水面を弾く音と混ざりながら聞こえ始めた。
「来たか」
俺は、横目で背中にいるラルを見て、覚悟を決めた。
「さぁ〜ラル。お前の力も貸してくれよ。そしてミストラルを守ろう……混血魔法【ミリオンブラッド】‼︎」
今回は、光の粒を俺自身の周囲に浮遊させるのではなく、ラルのいる背中側と敵が侵入してくるであろう正面からは死角になる門壁の裏などに配備させた。その理由は『防衛』という観点から最初から手の内を見せない事。死角に隠す事で奇襲が出来る事。戦闘直前まで風の影響を受けないようにした事。
単なる自己防衛だけでなく、広範囲の防衛にも対応可能な形態は、この日を想定して修練してきた賜物だった。




