3.ケーキに釣られて生まれて初めて癒し魔術が出来ました
殺される!
私が覚悟した時だ。
「ギャーーーー」
しかし、次の瞬間、そのゴブリンの上半身が消えていた。
「お義兄様!」
そこには戻ってきてくれたハルトお義兄様が立っていた。
血まみれの剣を持ったその姿は普段なら見れたものではなかったが、こういう時は本当に頼りになった。
「大丈夫か?」
「ルーお義兄様が!」
ハルトお義兄様に声をかけられて、私はあわてて、後ろのルーお義兄様を見た。
「ルードルフ! なんでこんなことに!」
お義兄様の言葉に私はすぐに言葉がでなかった。ルーお義兄様は私を庇ってやられたのだ。
「少し、ミスってしまいました!」
ルーお義兄様は私を庇ってか自分のせいにしてくれた。
「違うの。ルーお義兄様は私を庇ってこうなったの。ルーお義兄様、大丈夫?」
子供の目の私が見ても、血まみれのルーお義兄様は瀕死の重症だった。
「兄上、今まで有り難うございました」
「何を言うんだ、ルードルフ! ゴブリンに斬られたくらいで我がハウゼン公爵家の男は死なんぞ」
なんかハルトお義兄様の言うことはめちゃくちゃだ。それは天下無敵のハルトお義兄様や燃やされても死にそうにないローデリヒお義兄様ならそうかもしれないが、普通は死ぬわ!
「うっ」
ルーお義兄様が斬られた胸を押さえて苦しみだした。
「お義兄様、しっかりして!」
私はルーお義兄様にしがみついた。
「ローデリヒ、魔術で何とかならないか?」
「兄上、いくら俺でも無理だ。俺は攻撃系の魔術なら使えるけど癒し魔術は使えないよ」
ハルトお義兄様の質問に冷たくローデリヒお義兄様が答えていた。この二人はこんな時は役に立たない。このままではルーお義兄様は死んでしまう。
癒し魔術は確かヒールだった。
こうなれば私がやるしかない。
「ヒール!」
私は渾身の力を込めて叫んでいた。
しかし私が一度唱えたくらいでは全く癒し魔術は発動しなかった。
「ヒール!」
私はもう一度大きな声で叫んでいた。
「何をバカなことをやっているんだ。ヒールと叫んでいた出きるならとっくに俺がやっている」
呆れてハルトお義兄様が私を睨んできたが、お義兄様が出来ないから私がやっているんでしょう! あなたが出来たら、私はやっていないわよ!
私はそう叫びたかった。
「しかし、兄上、このままだとローデリヒはまずいですよ」
「どうする? 俺が背負って走っても入り口まで30分以上は、かかるぞ」
後ろでお義兄様達が下らないことを言い合っていた。
どう見てもルーお義兄様は30分も保ちそうに無かった。
「ヒール!」
私は渾身の力を込めてもう一度叫んでいた。
「ティアナ、そうじゃない。
右手をルードルフの額に向けて、左の手は腰につける。そして、女神様に感謝を込めて呪文を唱えるんだ」
ローデリヒお義兄様が、魔術の詠唱のやり方を教えてくれた。
「ローデリヒ、お前、ティアナにそんなこと言っても無駄だろう」
「しかし、兄上、ティアナの母は癒し魔術師です。ティアナも出来るかもしれません」
そうだった。お母様は癒し魔術が少し使えるのよ。だから遺伝で私も使えるかもしれない。それにワタシは転生者だ。ヒールくらい使えてもおかしくないはずよ。
「確かにティアナはお義母様の血を引いているが、3歳のガキがすぐにヒールが出来るようになるのか?」
「今はダメもとで試してみるしかないでしょう」
二人が後ろで話し合っていたけれど……
そうだ。今はやるしかない!
ルーお義兄様は私を庇って重症になったのよ。
「ヒール!」
私はもう一度ローデリヒお義兄様が言うとおりにやってみた。
でも、必死に祈っても全く何も起こらない。
「ティアナ、何をしている。お前なら出来るはずだ」
「そんなに易々とできるわけない……ギャーーー! 痛い! ローデリヒ、何をするんだ!」
「兄上、ここでルードルフが、治らなかったら、父上にボコボコにされますよ」
「いや、そ、そ、そうだな。判った。ティアナ、お前なら出来る」
ハルトお義兄様はお義父様に怒られると聞いた途端に私を応援し始めたんだけど……
そんなに簡単にヒールが出来たら、苦労しないわよ。
「ヒール!」
私が再度叫んでも、何も起こらなかった。
私はいい加減に疲れてきた。
詠唱するだけでも、何故か結構疲れた。
「ローデリヒ、やはり無理ではないか!」
ハルトお義兄様はあっさりと諦めてくれたんだけど……
「そんなことはないはず。ディアナは出来るはずですよ。何か餌でもあれば……」
ローデリヒお義兄様! 私は豚じゃ無いんだから!
私がむっとした時だ。
「そうだ。ティアナ、お前、ここでヒールが出来たら、俺のケーキをやろう」
「えっ、本当に?」
私は現金なもので、そのローデリヒお義兄様の言葉に釣られた。
「ケーキで良ければ俺のもやるぞ」
なんとけちなハルトお義兄様まで言い出してくれたんだけど……
嘘!
公爵家のケーキはほっぺたが落ちるほど美味しいのよ。前世の記憶が蘇った私でも垂涎ものだった。
それが二つも食べられるなんて!
私には苦しんでいるルーお義兄様が、ケーキに見えだした。
そうだ。ルーお義兄様を治して、ケーキをもらうんだ。
私は俄然やる気になった。
女神様、お願いですからルーお義兄様を治して下さい!
私は心の底から祈ったのよ。
なんだか体の奥底から沸き上がる力を感じ取っていた。
「ヒール!」
私が叫んだ時だ。私の右手から少しだが金色の光がルーお義兄様に向かって飛んだのよ。
ほんのわずかだけど……
ルーお兄様の体から、流れ出す血が少し止まったような気がした。
「おおおお、凄いぞ、ティアナ!」
「もう一息だ、がんばれ、ティアナ!」
両お義兄様に褒められて、私は嬉しくなった。
「ヒール!」
手を掲げてそう叫ぶとさっきより少しだけ、金色の光が増えて、ルーお義兄様の傷口を覆っていた。少しだけ、ルーお義兄様の傷口が塞がった。
「ヒール!」
「ヒール!」
「ヒール!」
嬉しくなった私は何回もヒールをして、ルーお義兄様の傷口を塞いでいった。
「ヒール!」
でも、調子に乗って10回目に私が叫んだ時だ。
私の頭が真っ白になって、私は魔力欠乏症になって気絶してしまったの。
ティアナは聖魔術が使えるようになりました。
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