2.三歳なのにダンジョンに連れて行かれて、ゴブリンに殺されそうになりました
新たな生活が始まった。
私は昨日までは男爵家を追い出された平民だったのに、今日からハウゼン公爵家のご令嬢になったのよ。
さぞかし優雅な生活になるだろうと当初は勝手に期待していた。
でも、それは甘かった……
私がどのゲームの異世界に転生出来たかは判らないけれど、この世界はアニメみたいに貴族が優雅な貴族生活を満喫出来る世界では無かったのよ。
何しろ今世のこの世界には魔物がうじゃうじゃいた。
魔物を退治するには多かれ少なかれ魔力がいるのだが、平民達は圧倒的に魔力の無い者が多かった。あっても少しだ。そうなると中々魔物は倒せない。必然的に魔力の多い貴族が中心になって魔物退治をするしかなかった。
それは公爵家でも当然で、女子供といえども魔物退治に動員されるのだとハルトお義兄様に言われたんだけど……
「私、男爵令嬢の時はそんなこと言われたこと無いんですけど……」
一応私は反論したのよ。
「ふんっ、最下層の男爵家ではそれが許されても、公爵家ではそのような我が儘は許されない」
お義兄様によると地位が高くなるほどその責任は大きくなるのだとか。
「noblesse obligeという言葉を知らないのか?」
ってハルトお義兄様が言うんだけど、いや絶対に、ハルトお義兄様だって知らないよね?
意味も知らずに勝手に言っているだけでしょう!
私は余程突っ込みたかった。
noblesse oblige、貴族の義務って何よ?
貴族令嬢は貴族の令息が魔物を倒しに行くのを手を振って見送れば良いと思ったのに……
どうやら、この世界では貴族の義務は第一に魔物を退治することらしい。
特に公爵家ともなると当主自らが騎士団を率いて魔物討伐に当たるのは当然で、領民の生活を守るのに貴族達は自ら剣を握って戦わないといけないそうなのよ。
公爵家に養女に入った私も当然戦わないといけないとまだ3歳にも満たない私はお義兄様たちに近くのダンジョンに連れ出されたの。
私はお義兄様から身を守る手段として棒だけの魔法の盾を持たされたわ。
これは棒に魔力を通すと半球状の大きな魔法の盾になるという優れものよ。
「ギャッ!」
試しに盾を出してみて、ハルトお義兄様を吹っ飛ばすのには成功したわ。お兄様は地面に這いつくばってくれた。
「お前、何をするんだ!」
「ごめんなさい。ハルトお義兄様。操作の仕方が良く判らなくて」
私は言い訳したが、ちょっとむかついたから、わざとやったに決まっているじゃない!
必死に愛想笑いして誤魔化したけれど……
「ふんっ、所詮、ティアナは女だからな。怖かったら入り口で待っていても良いぞ。もっともそんな臆病な女は、二度と義妹とは思わないが……」
地面に打ち付けた顔を押さえたお義兄様にそんな風に言われたら付いていくしかないじゃない。
「行くわよ。私も公爵家の義務を果たすわ」
私はお義兄様に宣言していた。
「ふんっ、いつまでその威勢が続くか見物だな」
お義兄様はそう言うと先頭に立ってダンジョンの中に入っていってくれたんだけど……
お兄様は7歳にして既に公爵家の騎士とも下手したら互角に戦える騎士だった。
お義兄様の後ろが次男のローデリヒお義兄様で彼は1つ下の6歳。
そして、この子は魔術の天才よ。
ハルトお義兄様は魔術はもう一つで使える魔術は身体強化だけだったけれど、ローデリヒお義兄様は既に6歳にしていろんな魔術が使えた。公爵家の期待の星なのよ。
7歳にしてこの国最強と言われるハウゼン公爵騎士団の騎士と互角にやり合うお義兄様が前衛で、将来はこの国の魔術師団をしょって立つと言われたローデリヒお義兄様がその後ろにいるのよ。
大抵の魔物はハルトお義兄様とローデリヒお義兄様だけで倒せた。
そして、私の横にいてくれるのが三男のルードルフお義兄様で5歳。ルードルフ略してルーお義兄様は剣術はからきしで、魔力も乏しいけれど、勉強の天才で学園に入った後は私が本当にお世話になったお義兄様だ。
でも、ダンジョンではあてには出来ないから、本当にお荷物だった。
まあ、私もルーお兄様とそんなに変わらないんだけど、魔力量だけは多いみたいで、魔法の盾を使っても全然疲れなかったから、ルーお義兄様よりは役立つのよ。
誰よ。私も含めて2人ともお荷物だなんて言っているのは?
最初は私もハルトお義兄様とローデリヒお義兄様に付いていったのよ。
でも、私は3歳でしか無いのよ。
当然いつまでも2人について行けるわけ無いわよ。
2人がずんずん先に歩いて行くのに、私は段々遅れたわ。
それで仕方なしにルーお義兄様が私に付いてくれたの。
私はすっかり疲れてしまった。
出来たらおんぶって言いたかったけれど、さすがに5歳のルーお義兄様におんぶしてもらうわけにはいかない。
でも、ハルトお義兄様もローデリヒお義兄様も見えなくなっていた。
私は本当に疲れてしまったのよ。
思わず岩の上に座ってしまった。
「ティアナ、どうしたんだ?」
「ルーお義兄様、もう歩けない!」
私は思わず本音をこぼしてしまった。
「何にを言うんだ、ティアナ。そんな事を兄上が許すわけ無いだろう。俺が3歳の時なんてもっときついダンジヨンに潜らされたんだから……それに比べればここは楽勝だぞ」
ルーお義兄様はそう言って慰めてくれるんだけど、そんなの慰めにもならなかった。
「女の子と男の子は違うわよ」
私はこう反論するのが精一杯だった。
「うーん、そうは言ってもな。ハルト兄上では無いから俺がティアナをおんぶしていくのは無理だぞ」
そんな事は判っているわよ。
でも、私の足がもう言うことをきかないんだもの。
私は限界だったのよ。
でも、ここはダンジョンの中だから。もっと警戒すべきだった。
「ギーーーー!」
「危ない!」
いきなり立上がったルーお義兄様が剣を抜いて、私を庇ってくれた。
ガキン!
私の目の前で斬りかかってきたゴブリンの剣をルーお義兄様が受けてくれた。
「キャーーーー!」
私は悲鳴しか上げられなかった。
そして、驚いた私は魔法の盾を落としてしまったのよ。
「やばい!」
慌てて拾おうとした私にゴブリンが斬りかかってくれたのよ。
「ギャーーーー」
斬りつけようとしたゴブリンからルーお義兄様が私を庇って斬られてしまったのよ。
「ルーお義兄様!」
私は倒れ込んだルーお兄様に駆け寄った。
ルーお義兄様はゴブリンに斬られて血まみれになっていた。
「ギーーーー」
ゴブリンの雄叫びだった思う。
ゴブリンが剣を振りかぶってくれたのが私の視界の端に写った。
私は縮こまって死を覚悟したのよ。
絶体絶命のティアナ!
ティアナの運命や如何に?
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