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第9話 「勇気づけるため」という表向きの言い訳
盆の最後の日。
私は他人の家の玄関先に置かれた精霊馬を眺めながら、また癌のことを考えていた。
母の癌が分かってから、頭の中はずっとそのことでいっぱいだった。
治療法。
生存率。
副作用。
調べることはいくらでもあった。
私は必死に情報を集めていた。
だが、今思えば一番向き合えていなかったのは私だったのかもしれない。
母がふと、
「私が死んだら……」
と言いかけたことがある。
私はその言葉を最後まで聞かなかった。
聞きたくなかった。
「そんなこと言わないで」
「まだ死ぬと決まったわけじゃないでしょ」
そんな言葉で遮った。
当時の私は、母を勇気づけているつもりだった。
弱気にならないように。
前向きになってもらえるように。
そう思っていた。
だが本当は違ったのかもしれない。
母の死について考えるのが怖かっただけだ。
母の言葉を止めたのは、母のためではなく自分のためだった。
勇気づけるため。
自分を、勇気づけるための。
結果として、いくつかの言葉は表向きの言い訳だったのかもしれない。




