第10話 知らない不安と知る不安
今後のことがわからないと、人は不安になる。
だから私は調べた。
がんとは何なのか。
どんな治療法があるのか。
どれくらいの確率で再発するのか。
何を食べればいいのか。
知れば不安は減ると思ったからだ。
実際、知らないまま漠然と怯えているよりは良かった。
最悪のケースも、治療の選択肢も、ある程度は予測できる。
けれど、調べれば調べるほど思った。
情報は多すぎる。
良い話もあれば悪い話もある。
奇跡的に回復した人の記事もあれば、あっという間に亡くなった人の体験談もある。
同じ病名なのに、結果はまるで違う。
だから結局、人は自分が信じたい情報を拾うのかもしれない。
前向きな人は希望を探す。
悲観的な人は絶望を探す。
そして今の母は、完全に後者だった。
母は普通に仕事へ行き、普通に帰ってくる。
ご飯も食べるし、テレビも見る。
傍から見ればいつもと変わらない。
けれど中身は別人のようだった。
心だけがどこかへ引きこもってしまったように見える。
こんな母を見たことがない。
そもそも家で酒を飲む人ではなかった。
それなのに最近は、焼酎のロックを作っては黙って飲む。
酔って楽しくなっているようには見えなかった。
たぶん、酔わないとやっていられないのだ。
知らない不安から逃げるためなのか。
それとも、知ってしまった不安を忘れるためなのか。
私にはわからなかった。
ただ、バラエティ番組を観る頻度が増えたことだけは母を観察していてよく分かった。
バラエティ番組が新しい刺激になると良いのだけどな…見ている時に笑っていないが…。




