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人生100年時代だっていっただろうが! 〜母という異世界生物観察記録〜  作者: 目立拓奶


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第87話 オトナゲナイ私

帰りの電車は、少しだけ混雑していた。


あまりにも忙しい一日だったので、疲れがどっと出てきた。


ふと、母への接し方はこれでよかったのだろうか、と不安になった。


母は、少し元気がなかったかもしれない。


気のせいだろうか。


実の母ががんになったとき、家族は想像以上に、どう接したらいいのか悩むものなのかもしれない。


息子が一度も病院に来ないとか、ケアをしなかったとか、そういう話はたびたび耳にするらしい。


実際、母は大部屋にいるが、家族が面会に来ているご家庭は一つくらいだっただろうか。


ただ、そのご家庭には配偶者らしき人が来ていたので、子どもや孫ではないようだった。


自分ががんになったとき、私の子どもは男の子だから、もしかすると寂しい思いをするかもしれない。


そんなことを考えたと同時に、性別役割分担による格差のようなものを感じた。


自分自身にもそうだし、実際にそういう傾向があるのかもしれない。


幸い、私は入院するような事態には至っていないが。


いや、これもジェンダーバイアスなのかもしれないな……。


そんなことを考えていると、優先席に、一体いつの時代のギャルなのかわからないようなギャルが二人座っていた。


目の前には、七歳くらいの男の子と、その母親が立っている。


ギャルAは脚を伸ばしながら、


「ソース焼きそばくいてぇ。金がねぇ」


と言っている。


ギャルBは無言でスマートフォンを操作していた。


目の前に親子が立っていることに、気づいている様子はない。


すると次の駅で、ギャルたちとは反対側の優先席が一席空いた。


私はすかさず、その席に荷物を置き、


「あの、よかったらどうぞ……」


と親子に声をかけた。


すると、ギャルAは口を半開きにして、こちらを見ている。


ギャルBは姿勢こそ変えなかったものの、目だけがギロリとこちらを向いた。


母親が、


「あぁ、すみません! ほら、座りなさい」


と子どもに着席を促す。


男の子はぺこりともせずに椅子に座ると、


「母ちゃんも疲れてるだろ? 座れよ」


と言った。


マナーがなっているんだか、なっていないんだか、よくわからない。


それでも、母親を思いやる優しい男の子に見えた。


お母さんはあたふたしながら、


「えっ、そんな、いいわよ。私は大丈夫」


と言う。


男の子は大きく股を開いて座っている。


そのせいで、隣にいた中年のサラリーマンたちは、少しだけ脚を閉じた。


一体どうなっているんだ……最近の若者は。


そう思いたくないのに、思ってしまった。


すると、ギャルたちの方から声がした。


「うざ。気まず」


見てみると、ギャルAもBも、こちらを睨んでいる。


思わず、


「えっ? 私? なんで?」


と思いながら、目を逸らしてしまった。


今日はストレスの多い一日だった。


これは幻覚かもしれない。


そう思って、私は宙を見上げた。


すると、ふと、あることを思いついた。


自分のカバンに手を突っ込み、あえて大きな動作でガサゴソと探る。


透明な、親指ほどの大きさのジップロック。


カードケースのように薄い袋の中には、白い粉が入っている。


それを人差し指と中指の間に挟んだ。


ギャルBが、ぎょっとした顔をしている。


ギャルAは相変わらず、ぼけーっとしていた。


私は、あえて指の隙間からその小袋を落としながら、もう一度ガサゴソとカバンを探った。


今度は、乾燥した緑色の葉っぱが入ったコンビニ袋を取り出した。


ギャルBは、


「やばー。あっち行くよ」


と言って、ギャルAを引っ張った。


ギャルAは相変わらず、ぼーっとしている。


ソース焼きそばを食べたいとか、そんなことを考えているに違いない。


優先席が二つ空いた。


私も疲れたので、腰を下ろそうかと思っていた。


すると、先ほどのお母さんが、床に落ちた小袋を拾ってくれた。


「あの……どうぞ」


「あ、ありがとうございます」


私は素直に小袋を受け取った。


これは塩だ。


大きな袋には、外国人らしき人の字で「ホーリーバジル」と油性ペンで書かれている。


凝ったものが食べたくて、ガパオライスを作ってみようと思っていたのだ。


決して、悪いものを所持していたわけではない。


勝手に少女たちが勘違いしただけだ。


周りにいた大人たちは、まったく動じていなかった。


経験値の違いを見せつけてやったな、と内心ほくそ笑む。


……が、自分の精神年齢の低さには呆れた。

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