第82話 シルバーフィンガー、佐藤鷹
「家が田舎にあるなぁって、思うわよね」
母もベッドから窓の外を眺めていた。
「うん。まぁ、そうだね。東京って感じの景色だね」
「今回、大体30万円くらいかかるんだけど、都内のタワーマンションだったら、月々こんなもんかね」
「えっ、病院生活を都内のタワマン生活で換算するの?」
「え、ダメ? 普通でしょ」
この人の言う「普通」が、改めて普通とは程遠いものだとわかった。
すると突然、母が叫び出した。
「あー、待って待って! トイレ行きたい。トイレ、トイレ!」
腕には点滴がつながっているため、移動するのも大変そうだった。
「あんた、邪魔よ。どいて」
もう少し言い方はどうにかならないものか。
私はムスッとしながら、母が動けるように場所を空けた。
すると、コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。
「あ、看護師の佐藤です。ちょっと、娘さん……今、いいですか?」
え、私?
そう思いながら、佐藤さんのもとへ向かった。
「あのー、とても言いづらいんですけど……」
言いづらいこと?
まさか、余命宣告か……?
いや、余命宣告なら、本人に直接話すだろう。
そんなことを考えていると、佐藤さんが困ったような顔で口を開いた。
「あの、お母様の……あの……そこに飾ってあるものは……?」
看護師さんが指さしているのは、テーブルの上に置いてある、昔流行ったシルバーフィンガー佐藤鷹の手だった。
「ああ、あれですか。昔から家にあるんですよ。あれがないと眠れないなんて、まるでこどもみたいですよね。あははは」
私は笑ってごまかした。
佐藤さんは、困ったような顔で笑っていた。




