第75話 情緒がおかしい娘
完全に情緒が狂ってしまった私は、自分の膝を叩いて気合を入れた。
何度か瞬きをすると、目元が湿っていた。
しかし、そろそろ面会時間も終わってしまう。
そうしてカフェを離れようとしたとき、長身で胸板の厚い、見るからにエリートっぽい好青年が現れた。
「お忘れ物じゃないですか?」
彼が指さす方向を見ると、私は大人のおもちゃとシャンパンが入った紙袋を、思いっきり椅子の上に置きっぱなしにして立ち去ろうとしていた。
中身は見えないはずだ。
しかし、この中にあんな卑猥なものが入っていると思うと、急に恥ずかしくなった。
「す、すみません! 本当にすみません!」
そう言って紙袋を奪い取るようにして、足早にその場を去った。
恥ずかしい! 私のじゃないのに!
すべて、あの母がいけないんだ。
私にこんな屈辱的な思いをさせて!
私の怒りはガソリンのように燃え上がった。
そして私は、これまで出したことがないくらいのスピードで病院へ走っていった。
目がガンギマリだったからか、それともあまりのスピードだったからか、病院の入り口で警備員に止められた。
「すみません、すみません。検温してください。あと、消毒も。マスクは?」
「あっ、えっ、あっ……」
またしても意味の分からない声を出しながら、言われたことにひとつずつ対応していく。
ようやく準備が整い、母のいる病棟にたどり着いた。
ナースセンターに行き、面会用のシートに記入する。
「面会は一回30分までなんですが……本日は、すでにいらしていますよね……?」
そうか。
私は、まったくそのルールを理解していなかった。
「あの、荷物を渡したいだけなんですが……」
「それでしたら、お預かりしましょうか? 中身は何ですか?」
「いやいやいやいやっ! あっ、いえっ、私が食べますから、入れてください。すみません」
自分でも何を言っているのか分からないことを口走ると、看護師さんは首をかしげながらも、「どうぞ」と言うように合図を送ってくれた。
私は改めて、母の病室の前に立った。
深呼吸をする。
開ける。
入る。




