第7話 盆
盆の季節がやってきた。
私はこれまで、お盆というものに特別な関心を持ったことがなかった。
だが今年は違う。
この時期になるとSNSでは、「白装束を着た人を見かけて、お盆の時期になったと実感した」という投稿を見かける。友人や後輩が帰省してきたという話も耳にする。
死んだ後、人はどうなるのだろう。
私は昔からそんなことばかり考えていた。
人生の通信簿は、もしかするとその瞬間に初めて渡されるのかもしれない。そんなことさえ思っていた。
昔、うちには猫がいた。
真っ黒な猫だった。
どこからか迷い込んできて、気がつけば毎日のように家にいるようになり、そのまま飼うことになった。
死んで10年経つが、お盆になればその猫にも会えるかもしれない。
そんな期待も少しだけあった。
仕事を早めに切り上げ、一歳の息子を連れて帰宅した。
小さな子どもは、この世にいないものが見えることがあるとも聞く。
だが、息子の様子はいつもと変わらなかった。
何も変わらないお盆だった。
ふと、母が死んだら帰ってくるだろうかと思った。
何なら特に今回はそれが最も気になっていた。
だが昔から母と私は仲が悪い。
もしかすると、私だけになった時、母は帰ってこないかもしれない。
そんなことまで考えた。
今、母はこれから本格的に始まる治療を前にしている。
きっと恐怖で、何も考えられなくなっているのではないだろうか。
その日、母は孫に会うために来ると言っていた。
私は少し早めに来るのかと思っていたが、仕事を終えた後、酒を何杯か飲んでから来たようだった。
息子はすでに「くぅーすぅー」と独特な寝息を立てて眠っている。
私は母をの様子を見ながら、それとなく話しかけた。
癌の特徴のこと。
他の治療法の選択肢のこと。
癌の予防に良いと言われる食べ物のこと。
思いつく限りの話をした。
だが母は酒を飲みながら、今ハマっているらしいドラマをぼんやりと見ていた。
私もそのドラマを見ている。
ふと画面を見ると、物語が大きく動いていた。
「え!? 捕まっちゃうの? というか、この刑事、極端だな!」
思わず、大きな声が出てしまった。
毎週見ている人なら、思わず身を乗り出すような展開だった。
だが、母は反応がない。
視線はテレビに向いている。
けれど、その目はドラマを見ているようには見えなかった。
ただ、動いている映像を眺めているだけだった。
母はまだ、癌と告げられた現実の中にいたのかもしれない。




