第51話 キャネボウで眉毛のアップデートをする?しない?②
「眉毛を選んでほしいんです。」
謎の要求をした母に対して、肌は発光しているし、まつ毛は完璧だし、髪の毛までツヤツヤな女性は少しも動じることなく微笑んだ。
「アイブロウをお探しですか?」
「そうそう、眉ブロウ。」
発音がぎこちない。
というか、この肌は発光しているし、まつ毛は完璧だし、髪の毛までツヤツヤな女性は確かに「アイブロウ」と言ったはずだ。
何だ、眉ブロウとは。
そもそもブロウって何なんだ。
母は堂々としているが、私はそちらの方が気になってしまった。
その後も母は、
「眉毛がね、なんか元気ないのよ。」
「あと何年生きるかわからないから、いいやつにしたくて。」
などと好き勝手に話し、肌は発光しているし、まつ毛は完璧だし、髪の毛までツヤツヤな女性は見事に要点だけを拾ってくれた。
さすがプロである。
要件を一通り伝え終えた母は、すでに第一関門を突破したような顔をしていた。
一方の私は、まだブロウの意味が気になっている。
そんな私たちに向かって、肌は発光しているし、まつ毛は完璧だし、髪の毛までツヤツヤな女性は言った。
「こちらから番号札をお取りいただいて、店内でお待ちください。」
私はてっきりそのまま案内されるものだと思っていたので少し拍子抜けした。
言われるまま発券機で番号札を取る。
67番だった。
素数である。
割り切れない数字として有名だ。
別に有名ではないかもしれないが、私は素数が好きなので少し嬉しかった。
母は番号札を眺めながら言った。
「なんだか病院みたいね。せっかく現実から離れたことしたかったのに。」
「いやいや、たかが番号札でしょ。どこにだってあるし。」
「じゃあ、ほら。千葉のネズミのハッピーなんちゃらタウンはどうなの?番号札なんてないでしょ?」
「まぁ、ないかもね。」
「楽しくないのよ。番号札ってのは。」
「番号札に楽しさを求める人なんて、あんまりいないと思うけどな。」
そう言いながら何気なく右隣を見ると、別の有名メーカーの化粧品売り場があった。
「あ、ルルララだ。」
「違うと思う。」
「え?」
「たぶん違う。」
正式名称は全然違ったが、母の中ではルルララだった。
「あそこ名前だけは知ってる。」
「ラ行、多。」
母はギャルみたいな相槌を打った。
「ここ有名なの?」
「有名だと思うよ。」
「全然人いないじゃん。」
「平日だからじゃない?綺麗なOLさんが持ってるイメージある。」
「えっ、そうなの?」
母の目が輝いた。
嫌な予感がする。
「まぁ私24歳だから行ってみるかな。」
そう言って胸を張る。
「ぴったりじゃん。」
ぴったりではない。
全然ぴったりではない。
私はこの時、完全に忘れていた。
母は自称24歳だったのだ。
無理がありすぎる設定すぎて、時々こちらが忘れてしまう。
そう思っているうちに、母はもうルルララの売り場へ向かって歩き出していた。
「ちょっと!キャネボウは!?」
「まだ67番だから大丈夫よ。」
そう言いながら、母は新しいおもちゃを見つけた子どものような顔で歩いていく。
私はため息をついて後を追った。




