第47話 ガンが分かった時の話
母のガンが見つかったのは、3月の健康診断だった。
毎年きちんと1月に受けていたが、その年だけ少し予定がずれ込んだ。
検査で肺に影が見つかった。
精密検査が必要とのことで、近くの病院を紹介された。
その時点ではステージ1だった。
けれど母は、その診断にどこか納得していなかった。
以前から何度も病院に通ってきた経験から、
「やたら前向きなことばかり言う先生は、ちょっと信用しない。」
という謎の持論を持っていた。
そこで母は、日本でも有名ながん専門病院を受診することにした。
そこで告げられたのはステージ2。
さらに詳しい検査を重ねていくうちに、別の箇所にも病変が見つかった。
そして今、診断はステージ3になっている。
診察室で説明を受けていた時のことだ。
母が先生に聞いた。
「えっ、じゃあ私ってまだいけるんですかね?」
先生は少し首をかしげた。
「何がですか?」
「だって、ガンの進行が早いのって若い人に多いんでしょ?」
私は思わず天井を見上げた。
先生は一瞬黙ったあと、笑った。
「そういう傾向はありますね。」
母も真剣な顔でうなずいている。
「じゃあ私、まだ若いってこと?」
先生はさらに笑った。
「お若いですよ。」
すると母は得意げに言った。
「人生100年時代で考えたら、60代なんてまだ6割ですもんね。」
先生も負けていない。
「そうですね。あと40年ありますね。」
母は満足そうだった。
「あと子ども二人くらい産めるかもしれない。」
私は静かに目を閉じた。
先生も、ついに苦笑いをしていた。
そんなやり取りを経て、母は三週間後に入院することになる。
残された時間がどれくらいあるのか、私は知らない。
母も知らない。
だから私は、何かを勧めたりはしない。
あれをした方がいいとか、これをやった方がいいとか。
私は母ではないし、母の人生を代わりに決めることはできない。
残りの人生をどう生きるか。
それは母自身が決めることだ。
だから私は、母が自分で選んだ道を見ていたいと思う。




