第39話 朝の価値観
気づくと朝だった。
私もかなり疲れていたようで、メイクも落とさずそのまま寝てしまっていたらしい。
なんだか顔が重い。
慣れないマスカラがまつ毛同士をくっつけていて気持ちが悪かった。
目元をこすって落とそうとするが、余計にペタペタするだけだった。
私は重い腰を上げ、洗面所へ向かった。
寝室を出ると、すぐ斜め向かいにトイレがあり、その先に洗面台がある。
ドアを開けると、すでに先客がいた。
夫だった。
夫は何も話さない。
私も何も言わない。
しばらく水の流れる音だけが響く。
「昨日は見てくれてありがとう。」
そう声を掛けると、夫は黙ったまま口の周りを泡だらけにしながら歯を磨いていた。
そして一度泡を吐き出す。
「お義母さん、どうだったの?」
目を合わせないまま聞いてくる。
「あー、うん。まぁ、落ち込んではいるけど、元気そう。」
「ん。」
短く返事をすると、夫はリビングへ向かった。
ドカッとソファーに腰を下ろす音がする。
続いてリモコンを手に取り、テレビをつける音。
『――さんが、直腸がんのため亡くなりました。38歳でした。』
アナウンサーが淡々と、それでもどこか悲しそうな声で読み上げる。
「まじかー。」
夫がぽつりと言った。
「俺、好きだったんだけどなぁ。」
テレビに向かって話しかけるような声だった。




