38/69
第38話 娘から母へ
ちょうどタクシー代が1万円を少しオーバーした頃、私は家に着いた。
玄関を開けた瞬間、泣きじゃくる息子の声が聞こえる。
慌てて声のする方へ向かうと、顔を真っ赤にした息子が夫にしがみついていた。
「ごめん、ごめんね。」
そう言いながら抱き上げる。
熱い。
たくさん泣いたせいで体が熱を持っているのか、それとも本当に熱があるのか、すぐには判断がつかなかった。
息子は私の肩に顔を埋め、小さな手で服をぎゅっと掴んだ。
その様子に胸が締め付けられる。
すると夫が口を開いた。
「ちょっと、さすがに遅いと思う。」
私は顔を上げた。
「……ごめん。でも、今回が初めてだよ。あなたは毎晩いない。」
夫はため息をついた。
「開き直るなよ。お前の帰りが遅いから発熱したんじゃないのか? ストレスで。」
ただでさえ普段していない育児に疲れていて、子どもがさらに熱を出して、全ての理由を私のせいにしたいように思えた。
母親の帰りが遅かったことと発熱を結びつける発想が、私には理解できない。
私は息子の背中をゆっくりさすった。
そして、この話を続けるのはやめることにした。




