第33話 「(自認)24歳のレイカです。」
扉を開けると、そこは薄暗い店内だった。
ボーイのような男性が話しかけてくる。
「お待ち合わせですか?」
「はい。神崎さんはお見えになってますか?」
「神崎様ですね。少々お待ちください。」
そう言うと男性は店の奥へ消えていった。
しばらくして現れたのは、身長180センチくらいはありそうな細身の黒髪マッシュの男性だった。
「神崎様、お待ち合わせのお客様がお見えです。」
神崎はスマートフォンから顔を上げる。
「あぁ、うん。外に来てる?」
「いえ、こちらのお客様です。」
神崎は「?」という顔をして、私たち親子を見た。
「こんばんは。レイカです。」
すると神崎は当然のように私に向かって話しかける。
「あぁ、えっと、お母さんも一緒に来た感じっすか?レイカちゃん、いくつだっけ?」
「24歳です。」
母が答えた。
すごく、すごく、物凄く過保護な母親のように見える。
だが違う。
なんとこの、どう見ても60代の女性こそが「(自称)24歳のレイカ」なのである。
神崎の顔が引きつった。
「あー……えっと……。」
明らかに処理が追いついていない。
無理もない。
私も聞いたことがない。
母親同伴のギャラ飲みなど前代未聞である。
「あー、今日はさ、お母さんいなくて大丈夫だよ?お母さん、帰り方わかる?それで、えーっと……レイカちゃんは初めて?」
この一言がいけなかった。
「……初めて?男性経験あるかなんて普通聞きます?」
母は完全に勘違いしていた。
神崎はおそらく「ギャラ飲みは初めて?」と聞きたかったのだろう。
だが母は「男性経験があるか」と聞かれたものだと思い込んでしまったらしい。
神崎は一瞬固まった。
「は?」
店内の空気が止まる。
「は?さっきから何言ってんの?」
母も負けていない。
「そっちこそ何言ってるの?」
「いや、だからさ……」
「だから何?」
神崎は眉間を押さえた。
「ていうか、ここおばさん来る場所じゃないんだけど。」
言ってしまった。
完全に言ってしまった。
私は頭を抱えた。
間違いなく喧嘩が始まる。
だが、先に喧嘩を売ったのは神崎なのか、勝手に勘違いした母なのか、もうわからない。
雲行きが怪しい。
これはもしかして警察沙汰になるのではないだろうか。
そう思った時だった。
「オーイ。」
店の奥から声が聞こえた。
低い。
とにかく低い。
腹の底に響くような図太い声だった。
背筋がゾワリとする。
「まだ一人来てないぞー。早く連れてこーい。」
その声と同時に
ガシャン。
ガラスが割れる音がした。
私は卒倒しかけた。
神崎も「あっ、やべぇ」という顔をしている。
どう考えても普通ではない。
怖い。
普通に怖い。
すると母は
「あら、ガラスが割れちゃったわね?」
と言った。
いや、「あら」じゃない。
普通はこういう状況であんまりガラスって割れないんですよ。
私は本気で帰りたくなった。本当に本当に帰りたくなった。




