第3話 言霊
この状況を聞けば、絶望そのものだと思う人もいるかもしれない。
だが、私の場合は少し違った。
私は育児ノイローゼになった頃、母に向かって「早くあの世に行ってくれ」と言ってしまったことがある。
今となっては、なぜあれほど怒っていたのかよく分からない。
当時は睡眠不足で、金もなく、常に何かに追われているような焦りがあった。心に余裕などまるでなかった。
そして我が家は、人に寄り添うことが苦手な家だった。
気に入らないことがあれば怒鳴る。感情をぶつける。
きっと家族全員それが普通で、ぶつけられ、ぶつける側でもあった。
大人になってからは多少コントロールできるようになったが、追い詰められると本性は簡単に顔を出す。
育児ノイローゼで実家に戻った私に対しても、母は私の話を聞こうとせず、すべて私が悪いと怒鳴った。
家は安心できる場所ではなかった。
小言を言われ、否定され、弱っている時ほど言葉は深く突き刺さった。
私は耐えきれず、怒りをそのまま母へ返した。
どうせ本気になる言葉ではない。
死ぬはずもない。
そう思っていた。
だが、その数か月後に母の癌が見つかった。
言葉には力があると言う。
私の言葉が癌を呼んだわけではない。
…と思う。ただ、その強烈な一言が母を苦しめ、ストレスになり、自分を攻撃し、癌の素を作ったのかもしれなあ。そんなふうに思ってしまう。
本気で願っていないことなら、どれだけ追い詰められていても口にするべきではなかった。
私はこの自分が発した言葉で、自分の首を絞めることが今後あるんではないかと思うくらいに、言ったことを後悔している。




