第25話 バカデカプリンとナンバーワン
「うん。このプリン、私は小さいと思っていたよ。」
母はスプーンでプリンをつつきながら首をかしげる。
「うちのプリンって、いつからこんな標準サイズになったの?」
娘、煽る。
「そうね……。」
母は少し考えた。
そして突然立ち上がった。
「よし!今からみんなでバカデカプリンを作るわよ!」
見事に煽られた。
母はグラニュー糖、卵、牛乳を次々とボウルへ投入する。
順番は量が多い順である。
血糖値爆上がり確定デザートだ。
すでにボウルはたぷたぷだというのに、母はお構いなしだった。
バシャッ。
プリン液が飛ぶ。
バシャバシャッ。
さらに飛ぶ。
私は浜辺のスーツが汚れないか心配になり振り返った。
すると浜辺の口元にプリン液が飛んだらしい。
指で拭う。
そしてそのまま舐めた。
「んんっ、うまっ。」
美味いらしい。首をながーく伸ばしてボウルを覗き込む。
「どれくらいでできるんですかね?」
「なにが?」
「いや、僕このあと次の営業がありまして。」
「ノルマとかあるの?」
「ノルマというか、売上目標ですね。」
すると母の目がキラリと光った。
「そうなの?」
浜辺が頷く。
「じゃあ私があなたをナンバーワンにしてあげるわ!!!!」
浜辺が固まる。
「えっ!?本当ですか!?」
「いいわよ!!!!」
母は勢いよく卵を割った。
「お金ないけどね!!!!」
「ないんかい!!」
珍しく私と浜辺のツッコミが揃った。
母はそんなことお構いなしで、巨大ボウルの中身をバケツへ流し込む。
ドバーーーーーッ!ドバドバドバーーーーーーッ!というか、ズザーーーーーーーーッ!!!!ビチャビチャリチャー!!!!!でもいいだろう。
幻のプリン液の滝が目の前で完成した。
「さぁ!焼くわよッ!!!!」
そう言って母は150度に予熱されたオーブンの前へ立った。
私は嫌な予感がした。
「お母さん。」
「なに?」
「まさか、そのバケツ……。」
母は満面の笑みを浮かべた。
「あ。」
数秒後。
「あぁ、間違えちゃった。」
「溶けちゃうわね。」
アハハハハハッ。
笑いながら鍋に水を入れ始める。
どうやら湯煎に切り替えるらしい。
なんとかなるのだろうか。
いや、ならない気もする。
そもそも、
「みんなで作るわよ」
と言ったのは誰だったか。
卵を割ったのも母。
混ぜたのも母。
流し込んだのも母。
私は何もしていない。
浜辺に至っては味見しかしていない。
それにしても卵を割るのが異様に速かった。
気づいたら三十個近く消えていた。
目にも止まらぬ早業とはこのことだろう。
私は人生で初めて、本物を見た気がした。
そして同時に思った。
このプリンより先に、母の血糖値が心配である。




