第24話 生命保険
玄関の方を見ると、ちらりと髪の毛と肩が見えた。
男性である。
浜辺である。
「あら、あらあらあら……浜辺さん……!まぁ、まぁまぁまぁ、恥ずかしい。さっきの会話、聞いてたの?」
浜辺は鼻水をスーツの袖で拭いながら、何度も頷いている。
グジュグジュと音を立てていて、花粉症がひどかった頃の自分を思い出した。
いい大人が、こんなにも泣けるものなのだろうか。
ひょっとして浜辺は――。
「ぼ、僕……お話を聞いて……その……」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、浜辺は言った。
「僕は、どちらかというと……清楚系JDが好みなので……その……」
やっぱりこの男は嫌だ。
私がもう清楚系JDになれないから腹が立つのだろうか、と一瞬考えたが、多分そういう問題ではない。
「僕、やっぱり……あなたには生命保険に入っていただいた方がいいと思います。」
浜辺は拳を握りしめた。
「いや、入るべきです!なぜなら――」
「あぁ、うん、ちょっと待って。」
私は話を遮った。
「プリン冷やさないと。」
そして母の方を見る。
「お母さん、冷蔵庫空いてる?」
「空いてるわよ。」
「あと、あんたカラメル作れる?」
浜辺は涙を拭いながら答えた。
「うん。作っておくよ。」
「じゃあ、プリン作りながら聞くくらいにはちょうどいいかもね。」
浜辺は真剣な顔で頷いた。
母はそんな二人を見ながら、小さなプリンをスプーンでつついている。
「やっぱり小さいわね……」
まだ言っている。
どうやらこの家では、生命保険よりも先に解決すべき問題があるらしかった。




