第22話 プリンvsトコロテン
「まぁ、えっと、がんで、その……お亡くなりになった場合にできる資産運用がありまして」
こいつは何を言っているんだ。
私は浜辺の襟をつかみ、椅子から立ち上がらせた。
「準備してから来い。そもそも、がん患者に対して失礼極まりない。帰って。」
自分でも驚くほど腹が立っていた。
浜辺は何度も頭を下げながら家を後にした。
母は二の腕をさすりながら、なんとも言えない顔で椅子に座っている。
「……なんであんなのが家に来たの?」
「……だって、ルノイールでコーヒー飲んでたら声かけてきたのよ。」
「はっ?」
「だから、ルノイールでコーヒー飲んでたら、『お姉さん素敵ですね』って。話してたら年齢聞いてびっくりされて。家に来たいって言うから……」
一体何をやっているんだ。
「あんたまさか……」
「何もしてないわよ!」
ものすごい剣幕で怒られた。
たぶんこのがん患者は、若い男に女性として見られたと思い込み、のこのこ家に上げたのである。
その結果、保険を契約させられそうになり、がんだと分かった途端、本人には何の得もない商品を勧められた。
私は呆れて言葉が出なかった。
すると母がぽつりと言った。
「まぁ……女風もいいかなって思ったのよ。」
「は?」
「でもほら、まだ保険金も入らないし、そんな余裕ないじゃない。」
何言ってんだこの色ボケババァ。
心の中で呟いたつもりだった。
「ところてんでも食べる?」
母は気まずそうにそう言った。
もうこの人の口から出る単語すべてが嫌だった。




