第19話 母の味、バカデカプリン
「母の味」といって、思い浮かべるものは何だろうか。
肉じゃがだろうか。ハンバーグだろうか。お味噌汁だろうか。
うちの母の場合、「母の味」はバカデカプリンである。
今でこそSNSが普及し、バケツプリンを作る人もいるが、私の中では、うちの母こそが「元祖バカデカバケツプリン」の作者だと信じてやまない。
尋常じゃない量の卵と牛乳を使う。
バニラエッセンスも丸ごと一本入れる。
本当に信じられない量の材料を使うのだ。
どんな時に食べたかというと、元気がない時だった。
テストの点が悪かったとか、そういうことではない。
犬が死んだ時とか、悲しさに押しつぶされそうな時だ。
うちの母は、そういう時に決まって「はっ!?」と思わず声が出るようなことをする。
その中でも一番印象的で、そして頻度が高かったのが、このバカデカプリンだった。
落ち込んでいるであろう母に、今こそ私が作ってあげるべきではないだろうか。
そう思い、母に会いに行く。
途中のスーパーでMサイズの卵を三パック、牛乳を三本、バニラエッセンス、グラニュー糖を買った。
そして勢いよく実家の玄関を開けた。
アポ無しである。
「お母さん……プリン食べよう!」
するとどうだろう。
居間にいたのは、見慣れない男だった。
「えっ、え、どちら様?」
「何、あんた。どうしたの?」
「あ、いや、プリン作ろうと思って……」
「プリン? なんで?」
「いや、プリン食べたいかなって……」
「いらないよ。太るし。」
えー。
ショック。
どうするんだ、この卵。
まぁ、突然押しかけた私も悪いのである。
「あ、そう……。で、どちら様?」
「初めまして。浜辺美波さんと同じ苗字の、浜辺太郎です。第二アジア生命の者でして、本日はお姉さまの保険のご相談を――」
「おねぇ様だってぇ〜! やだァもぉ!!!!! あははは!!!」
母、大ウケである。
クソっ。
どう見ても母はおばあちゃんである。
ホスト上がりたてみたいな茶髪のイケメンに、どう考えても持ち上げられているだけなのに、この女、上機嫌である。
ここから、元ホスト(勝手に命名)と、どうしてもバカデカプリンを作りたい娘のバトルが始まる。




