第15話 母なりの終活
母なりの終活は、洋服の整理だった。
母には思い出の品がたくさんある。
私から見ると、ただの服だ。
しかし母に言わせると、
「これはあなたの小学校の卒業式の時に着た服」
「これはお父さんと旅行に行った時の服」
「これは70%オフだった服」
など、全てに「由来」があるらしい。
最後のやつは思い出なのだろうか。
箪笥には入りきらない服が積まれている。
状態は悪くない。
着られないわけでもない。
だが、どれも少しだけ個性的だ。
派手な花柄。
謎の刺繍。(どこの国?)
どういう場面で着るのか分からない上着。
母はそういう服が好きだった。
「セールだったから」
「70%オフよ」
母はいつもそう言っていた。
当時の私は、
「欲しいから買うんじゃなくて、安いから買うんだ……」
と不思議に思っていた。
私は黒。
グレー。
紺。
気付けばそんな服ばかりになった。
反対に母は柄物をいくつも持っている。
着ているところはあまり見ないのに、持っている。
不思議な生き物である。
昔、「あんたも一着着てみる?」
と言われたことがあった。
その時は全力で断った。
だが今は少し気が変わった。
終活で処分するなら、一着くらい貰ってもいいかもしれない。
私はLINEを送った。
『処分する前に、一着ちょうだい』
すぐ既読になった。
『45リットルの袋が8袋あるから、1袋あげるよ』
思ったよりスケールが大きかった。
『せめて中身を見せて』と返す。
すぐ返信が来た。
『めんどくさい』
早い…。
『せっかく終活してるんだから邪魔しないで』
『またやり直しじゃないの』
確かにその通りだった。
終活の妨害はよくない。
『じゃあ適当に一着』と送る。
『おっけー』
というスタンプが返ってきた。
不安しかない。
数日後。
母から荷物が届いた。
開封すると出てきたのは、そうめん3束と、茗荷と、日向夏と、豹柄のフレアスカートだった。
果物やそうめんは嬉しい。
この食べられない豹柄のスカートと、私はどう向き合えというのだ。
スカートを持ち上げると、一枚のメモがひらりと落ちた。
「安いと色々試しやすい。」
なるほど。
母の購買時の意思決定に、こういう要素もあったのか。
試しているところはあまり見たことがないが、実は1人でこっそりファッションショーでもしていたのだろうか?
私は目の前の鏡にして、腰に豹柄のスカートを重ね合わせる。
「んー。似合わない!」
試した結果、似合わないものは似合わなかった。
でも試すことは意外と楽しいのかもしれない。
まさか、母からまだ学ぶことがあったとは。




