7
馬車が静かに夜の闇を滑るように走り出すと、気高い令嬢としての装いを崩さぬまま、エレオノーラは窓の外へとゆるやかに視線を向けた。遠ざかる夜会劇の残光を背に受けて、その陶磁器のように滑らかな横顔には、冷徹なまでの静けさが宿っている。
「それにしてもお父様、今夜の彼の振る舞いはあまりに滑稽でございましたわね。私の目前であのような稚拙な意趣返しまがいのことをなさるなんて、おのれの立場を見誤るにもほどがありますわ」
(本当に、目を覆いたくなるほど滑稽だわ。私に気に入られようと必死のくせに、いざ冷たくあしらわれると途端にプライドだけを膨らませて……。あんな無様なお方が私の夫になるなど、想像するだけで虫酸が走るわね。来週になれば、あの惨めな勘違いごと綺麗さっぱり私の前から消えてなくなるのだから、今夜だけは哀れな道化の足掻きとして大目に見てあげましょう)
声音には怒りなど欠片もなく、ただ無知な小動物のあがきを眺めるかのような、清らかな冷淡さが響く。向かいの席に腰を下ろした伯爵は、愛娘の整った物腰に目を細め、余裕に満ちた微笑みを浮かべた。
「無理もないことさ、エレオノーラ。彼はこれまで、優秀な跡取りの陰に隠れて不遇を託つ身だった。それが我が家との縁談を得たことで、ようやく自分にも春が来たと勘違いしてしまったのだろうよ。器の小さな人間ほど、思いがけない光に目が眩むものだ」
((まったく、分をわきまえぬとはこのことだな。我が家が拾ってやらなければ、一生日の目を見ない日陰者で終わるはずの分際で、私の可愛い娘に泥を塗るような真似をするとは。来週の朝、すべてを剥ぎ取られた彼がどのような顔をするか、今から実に楽しみでならないよ))
伯爵夫人は優雅に扇を閉じ、静まり返った車内に上品な息を吐き出す。
「本当にその通りですわ。我が家という比類なき後ろ盾を掴んだつもりで、あのような傲慢な態度が取れたのでしょうけれど……その足元が来週の月曜日には音を立てて崩れ去るというのに」
((あんな下品な男が、我が家の麗しいエレオノーラの隣に並ぼうなどと100年早いわ。身の程知らずもいい加減にしなさいませ。お前のような男は、せいぜい実家の片隅で一生惨めに膝を抱えて震えていればいいのよ。来週の断罪が、あなたにとってお似合いの現実よ))
伯爵夫人の脳裡に渦巻く冷酷な毒舌をよそに、エレオノーラは指先で完璧に整えられた髪を軽くひと巻きしながら、どこまでも澄んだ瞳を夜空の月に重ねた。
「来週の月曜日の朝が訪れるのが、今から心底楽しみですわ。あの者がすべてを剥ぎ取られ、私どもの足元で途方に暮れる姿を、ぜひ特等席で見届けて差し上げますわね……お父様、お母様、どうか最高の結末をよろしくお願いいたしますわ」
愛娘の冷ややかで気高い美しさに、伯爵と伯爵夫人は深く頷き合い、胸を満たす満悦の笑みを交わす。やがて馬車は夜のとばりを切り裂くようにして、静まり返った自邸の門へと優雅に滑り込んでいった。




