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「いやなに、若い二人の将来を思えばこそですよ。来週の契約履行の朝が訪れれば、彼の運命も大きく定まります。我が家としては、その結末を静かに見守るのみですので、どうかご安心を。これからの未来を祝して、ぜひ乾杯を」
(全く、我が愛娘をこれほど公然と蔑ろにし、我が家の誇りを泥で汚すとは……。自ら喜んで破滅の首を差し出すその愚行、しかと見届けておいたぞ。来週の当主会議では、あの無礼極まりない一族の面目を完全に潰し、我が家の気高き名誉と正当な代償を徹底的に回収してくれよう)
周囲の貴族たちは「契約履行の朝」「結末を静かに見守る」という不穏かつ圧倒的な優位を示す言葉の端々にハッと息を呑み、何事かと密かに視線を交わし始める。
ドレイク侯爵は我が意を得たりとばかりに豪快に笑い、その裏にある真意に気づかぬまま、すっかり気を良くした様子でうなずいた。
「ははは! 流石は伯爵だ、お言葉が実に頼もしい。我がドレイク侯爵家と貴家がしっかりと手を取り合えば、この国の未来はいよいよ安泰というものだな!」
その傍らで、エレオノーラは周囲の貴族たちの視線を一身に集めながら、あくまで完璧な貞淑さと微笑みを湛えてドレイク侯爵夫人に向き合った。一切のあてつけや棘を排し、どこまでも美しく朗らかな声音で語りかける。
「本当でございますわね。トーマス様は今宵もあちらで素敵なお嬢様方と楽しくご歓談されていらっしゃいますし、こうして皆様と穏やかな時間を共有できることが、私にとって何よりの喜びでございますわ。来週の厳かな契約履行の日まで、どうか皆様にとって素晴らしいお時間が続きますように」
(あの愛らしい婚約者は、今宵もまた別の華やかなお嬢様のドレスの裾を追って夢中になっていらっしゃるけれど……まあ、来週の朝がくればすべての契約が発動し、我が家の手によって綺麗に断罪されるのですから、今のうちにせいぜいお好きに舞っていただかなくては粛清の舞台が整いませんわね)
エレオノーラのどこまでも曇りのない、気高く愛らしいその姿は、周囲の貴族たちの目には「周囲への配慮を欠かさず、婚約者に尽くす健気な理想の令嬢」として映し出された。
しかし、その直後にふと視線の先で、トーマスが別の令嬢を露骨に手厚くエスコートしながらエレオノーラを完全に無視して通り過ぎる姿が、周囲の者たちの目に嫌でも飛び込んでくる。
「……見てご覧よ、あのドレイクの坊っちゃんは」
「あんなに気高く美しい婚約者を放置して、あられもない振る舞いを……」
「伯爵令嬢があんなに気高く微笑んでいらっしゃるのに、あまりに不誠実ではないか」
あえてこちらからは告発せずとも、ドレイク側の無神経すぎる冷遇の事実が周囲の目によって客観的に浮き彫りになり、貴族たちの間に静かなる義憤と
「あれはひどすぎる、彼女を救わねば」
「ドレイク家は一体どうなっているのだ」
という強烈な世論が自然と沸き起こっていくのだった。




