食事とミーティング
「わかったが、どう直すか決まらん」
フローラが立ち上がりながら言った。
「昼食にしましょう。続きはその後で」Claudeが言った。
フローラが渋い顔をした。
「食いながら考えるのか?」
「考えながら食べる、でもいいです」
ガレスがエドワール団長を見た。エドワール団長が小さく頷いた。
「私がご一緒します」ガレスが言った。
三人は裏手を離れた。
残った兵士二人がレーザーを見た。せっかくだから、という顔で一人が手をかけた。
動かなかった。
もう一人も試みた。
動かなかった。
二人は顔を見合わせた。
エドワール団長はその光景を見ながら、今朝のことを思い出していた。
***
エドワール団長が部屋に入ると、セラフィナはすでに席についていた。
「おはようございます」
「座って」
エドワール団長は腰を下ろした。ガレスがその隣に立った。
「報告を」セラフィナが言った。
ガレスが話し始めた。
昨日の工房での出来事。フローラの工房に滞在している人物。Claudeと名乗った。ゴーレムだと言われたが、外見は人間と変わらない。体つきは鍛えている。話し方は熟練している。観察眼がある。見た目は若いが、目が違った。
エドワール団長はガレスの顔を見ながら聞いていた。
「……これを真面目に言っているのか?」
「はい」
エドワール団長は少し間を置いた。ガレスが嘘をつく理由はない。大げさに話す男でもない。この男が「目が違った」と言う時は、本当に違うのだ。
セラフィナが口を開いた。「補足します。私も昨日工房に行きました」
「存じています」
「Claudeという人物と少し話しました。落ち着いています。こちらの質問に対して、答える前に一度整理する。感情で動く感じがない」
「ゴーレムのようだ、と」
セラフィナが少し考えた。「……そうとも言えます。ただ、ゴーレムにしては、よく見ている。こちらを観察している。フローラが作ったゴーレムがそこまでするものか、私にはわかりません」
エドワール団長はガレスを見た。
「兵士たちの見立ては?」
ガレスが続けた。「懐疑的です。私も半々です。ただ——あの所作は訓練されています。無駄がない。戦場経験があるかもしれないと、ダンが言いました」
「ダンが」
「はい。あいつの目は確かです」
エドワール団長は腕を組んだ。
半々、か。
しかし半々というのは、可能性がゼロではないということだ。
「町の変化はどうですか?」エドワール団長がセラフィナに向いた。
「出ています。帰り荷の話が出てきています。市場の端の小さな店が、繁盛し始めています。マリアという娘に聞いたところ、Claudeから教わったと言っていました」
「具体的に何を?」
「商売の仕組みです。キャッシュフロー、という言葉を使ったと聞きました」
エドワール団長はその言葉を繰り返した。「……キャッシュフロー」
「私も初めて聞きました。母親のマルタという女性については、Claude本人が、本物の商才がある、と言っていました。長いあいだ眠っていたが、動き始めている、と」
エドワール団長はしばらく黙った。
頭がいい、というだけではない。
「相手の能力を引き出す、ということか?」
セラフィナが少し目を細めた。「そう見ています」
「ゴーレムがそこまでするものか?」
セラフィナが言葉を選んだ。「それが——わからないんです。フローラは、ゴーレムだと言い張っています。自分が作った、と」
「フローラ殿は嘘をつきますか?」
セラフィナが即答した。「つきません。あの子は不器用なほど正直です。だから余計にわからない」
エドワール団長は報告書に目を落とした。
「兵器の件を聞かせてください」
セラフィナが頷いた。「フローラが作ったものです。昨日兵士二人で回収しました。図はそこにあります」
エドワール団長は報告書の図を見た。
筒、と言えば筒だった。縦横に向きを変える台座がついている。先端に、薄く削った角のようなものが据えられていた。何かを入れる口もない。飛ぶものもない。
「……これが兵器ですか?」
「そう聞いています」
「どういう仕組みで?」
「光を収束させる、と聞きました。詳しいことは——私にもわかりません」
エドワール団長がガレスに聞いた。「現場からの報告を、改めて聞かせてくれ」
「三日前の夜、森の方向に光が走りました。明け方に調査団を出しました」
「結果は?」
「魔物の脅威はありません。ただ——山の斜面の木が数十本、根元から一直線に消えていました」
部屋が静かになった。
「……木が、消えた」
「はい。魔獣でも竜でもない。方向はフローラ殿の工房からです」
「何発放った?」
「一発です。それでフローラ殿の魔力が尽きたと聞いています」
エドワール団長はしばらく黙った。
一発で木が数十本消えた。そしてフローラの魔力が尽きた。それだけの威力が出るということか。ただ、フローラ以外では使えない。
エドワール団長は図を見た。
筒だった。先端に角が付いているだけだ。何かを飛ばす仕組みが見当たらない。
「……どうやって木に当てた?」
ガレスが答えた。「それが——わかりません。光が走った、という目撃証言だけです」
「光が木を消した、ということか?」
「そう考えています」
エドワール団長はもう一度図を見た。
光が、木を消す。見たことがない。
「フローラ殿一人で作ったものではない、と?」
セラフィナが言った。「Claudeが関わっています。設計をしたようです。数値を出して、フローラがそれを魔法で形にした」
「ゴーレムが設計を」
「そう聞いています」
エドワール団長は報告書を置いた。
頭がいい。町の商売を改善した。兵器の設計をした。落ち着いている。観察眼がある。
しかしゴーレムだという。
「わからないことだらけですね」エドワール団長が言った。
「はい。だから確認が必要です」セラフィナが答えた。
「今日フローラ殿が点検に来るでしょう。詰所で作業させながら観察します。ただ、それだけでは足りない。町の中でも動きを見ておきたい」
「誰かつけますか?」
エドワール団長がガレスを見た。「副団長が適任かと。昨日直接見ている。目も確かだ」
ガレスが頷いた。
エドワール団長はそのままセラフィナを見た。
セラフィナは報告書に目を落としていた。
……なるほど。
エドワール団長が言った。「観察はしっかりやります。……両方から」
セラフィナが顔を上げた。「両方、とは?」
「Claudeという人物と、兵器の件、両方です」
「……そうですね。お願いします」
セラフィナは再び報告書に目を落とした。耳が、わずかに赤かった。
エドワール団長は何も言わなかった。
「今日はよろしくお願いします、エドワール団長」
「お任せください」
***
マルタの店に入ると、マリアが振り返った。
フローラを見た。
もう一度見た。
「……いらっしゃいませ」
Claudeが頭を下げた。「予約した者です。二人から三人になりました。申し訳ありません」
「三人、ですか?」
「副団長がご一緒です。外にいます」
フローラが腕を組んだ。
「なぜ呼ぶ?」
「昼食です。外で待たせるのは——」
「私は構わん」
「私が構います」
フローラがClaudeを見た。Claudeはすでにガレスに向かって手を上げていた。
ガレスが入ってきた。店の中を見た。マルタの店だと気づいた顔をした。
フローラの不機嫌が、一段階上がった。
席についた。マリアが料理を運んできた。フローラはすぐに食べ始めた。Claudeも食べ始めた。
「……いつもおいしいですね」
「ありがとうございます」マリアが少し照れた。
フローラがClaudeを横目で見た。
「マリアに惚れたか?」
「違います」
「では胃袋をつかまれたか?」
Claudeは少し間を置いた。
「胃袋をつかまれる、というのは比喩ですね」
「そうだが」
「ただ、正確に言うと——エネルギーが切れると私は動けなくなります。食事はその補充です。つまりここで食べられなくなると困る。弱点の一つを握られている、とも言えます」
フローラが手を止めた。
「……つまり胃袋をつかまれているということではないか?」
「比喩の意味とは違いますが、構造としては近いです」
ガレスは料理を食べながら、二人を見ていた。
(……何の話をしているんだ)
フローラが兵器の話を始めた。
「上限の仕組みの位置だが、収束角の前段に置くか後段に置くかで出力が変わる」
「前段に置けば魔力の消費を抑えられます。ただし収束精度が落ちます」
「後段なら精度は保てるが——」
「魔力の消費が現状と変わらない。フローラさん以外では使えないままです」
フローラが眉をひそめた。「前段に置いた場合、収束角はどこまで落ちる?」
「設計上は現状の六割程度まで落ちます。ただし魔力の入力量によって変動します」
フローラが指先でテーブルをなぞった。「六割か。それでも通常の魔法より精度は上だな」
「はい。問題は入力側の魔力の流れです。上限の仕組みを通した後の魔力が均一でないと、収束点がずれます」
「均一にする方法は?」
「魔力の流れを整える層を、上限の仕組みの後ろに一枚入れます。薄くていいです。ただし素材が——」
「素材なら工房にある」フローラが即答した。「第三棚の左から四番目」
「あれは実験用の——」
「使っていない。問題ない」
「……わかりました。では構造としては、上限の仕組み、整流層、収束機構の順になります」
「整流層の厚みは?」
「魔力の密度次第です。フローラさんが扱う魔力量を基準にするか、一般的な魔法使いを基準にするかで変わります」
「両方で計算しろ」
「今ですか?」
「今だ」
Claudeは少し間を置いた。
「フローラさんを基準にした場合、整流層の厚みは銅貨一枚ほど。一般的な魔法使いを基準にした場合、銅貨三枚分は必要です。ただし、それを超えると収束角にまた影響が出ます」
「では可変にする」
「可変にするには調整機構が必要です。構造が複雑になります」
「複雑でも作れる」
「作れますが——」
「作れるなら問題ない」
Claudeは少し間を置いた。
「……わかりました」
ガレスは料理を食べながら、二人を見ていた。
(……何の話だ)
(上限。収束角。整流層。前段。後段)
(一つもわからん)
フローラがまたテーブルをなぞった。Claudeがその指の動きを見て頷いた。フローラがまたなぞった。
(食事をしながらする話か、これは)
ガレスは黙って茶を飲んだ。
マリアが料理を運びながら、二人の横を通った。
ちらりと聞いた。
(……何の話か全くわからない)
ガレスと目が合った。
ガレスが小さく首を振った。
マリアも小さく首を振った。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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