押し問答
町に入ると、荷車が少し増えた気がした。
「前に来た時より多いですね」Claudeが言った。
フローラは特に興味なさそうに答えた。「そうか。行くぞ」
「すみません、私はまずマルタさんの店に寄ります」
フローラが立ち止まった。
「……先に行けと言うのか?」
「はい。詰所へは真っ直ぐ行けば着きます」
「一人でか?」
「地図を書きましょうか?」
「いらん」
フローラは歩き出した。Claudeは反対方向へ歩いた。
***
店に入ると、マリアが振り返った。
「Claudeさん!」
「おはようございます。マルタさんは?」
「奥で仕込みです。呼んできます」
「いえ、少しだけ。近況を聞きに来ました」
マリアが少し背筋を伸ばした。「王都の品物を扱う話が、まとまりそうです。あと、帰り荷の件で別の商人さんが一人、話を聞きたいって来て——」
「それはマルタさんに判断してもらってください。あなたではなく」
「はい。そう伝えました」
Claudeは店を見渡した。品の並べ方が変わっていた。香りが通りに向かって流れている。
「よくなっています」
マリアが少し照れた。「お昼、来ますか?」
「予約できますか?」
「Claudeさんだけですか?」
「二人です。もう一人は——少し変わった方ですが」
マリアが首を傾げた。
「来ればわかります」Claudeが答えた。
***
兵団詰所の前は、静かではなかった。
「返せ」フローラが言った。
「お返しできません」ダンが答えた。
「私のだ」
「領主様からお預かりしています」
「盗人め」
「……魔法使い殿、お静かに——」
Claudeが角を曲がると、フローラとダンが詰所の入口で向かい合っていた。フローラの目が据わっていた。ダンは困り果てた顔で、しかし一歩も退いていなかった。
周りの兵士が遠巻きに見ていた。
Claudeはフローラの隣に立った。
「フローラさん」
「168号。こいつが返さない」
「私はClaudeですよ」
ダンが怪訝そうにClaudeを見た。
Claudeはダンに向き直った。「朝から失礼しています。Claudeといいます。フローラさんの工房にいる者です」
ダンの目が、一瞬止まった。
「……昨日、工房にいた」
「はい。その節はどうも。レーザーの点検で来ました。ただ今は領主様が打ち合わせ中と聞いています。団長からの指示が出てからでないと難しいですね」
フローラが口を開きかけた。
「フローラさん」
「……なんだ」
「昼食の予約を入れました。いい店です」
フローラが黙った。
ダンが小さく息を吐いた。
しばらくして、詰所の奥から足音がした。
エドワール団長とガレスが並んで出てきた。エドワール団長はフローラを見て、次にClaudeを見て、それからダンを見た。
「何があった?」
「魔法使い殿が——」
「大体わかった。中へどうぞ」エドワール団長が言った。
***
詰所の裏手に、それはあった。
地面に置かれていた。長さ一メートル、見た目以上に重い。昨日兵士二人がかりで運んできたものだ。
フローラが真っ先に近づいた。
「返してもらう」
エドワール団長が静かに言った。「預かります。点検していただくだけです」
フローラが渋い顔をした。しかし手を引いた。
「説明をお願いできますか?」エドワール団長がClaudeに向いた。
Claudeはレーザーを見た。「はい。少し移動させます。安全のため」
Claudeがレーザーを持ち上げた。
一人で。
昨日運んできた兵士二人が、ぎょっとした。顔を見合わせた。もう一度Claudeを見た。
Claudeは安全な向きに置き直した。特に何も言わなかった。
エドワール団長はそれを黙って見ていた。
Claudeが話し始めた。「この装置は光を一点に収束させます。通常の魔法で生成する光とは異なり、指向性と密度が規格外になっています。フローラさんの魔法精度があって初めて成立しています。ただ、現状では魔力の消費が膨大です。フローラさんほどの魔法使いでないと、そもそも動きません」
ガレスが口を開いた。「つまり今は誰も使えない、ということか?」
「フローラさん以外は難しいです」
エドワール団長は腕を組んだ。
「続けてください」
Claudeがフローラを見た。
フローラが渋い顔をした。
「……ここでやるのか?」
「領主様のご意向です」エドワール団長が言った。
フローラがさらに渋い顔をした。しかしその場にしゃがみ込んでレーザーに手をかけた。
「制御装置から見る」
「上限の仕組みを入れる場所を、先に決めた方がいいです」Claudeが答えた。
「なぜだ?」
「制御装置は、その後ろに来ます。順番があります」
「……そうか」
二人はレーザーを挟んで向かい合った。そこからの会話は、周りには何が何だかわからなかった。
「収束角がここで——」
「いや待て、そうすると入力側が——」
「フローラさん、そこは魔力の流れを——」
「わかってる。だからこっちを——」
「——なるほど」
「——そこか」
「——はい」
フローラが突然笑い出した。
ガレスがダンに小声で言った。
「……何を見張るんだ、我々は」
ダンが同じく小声で答えた。
「……わかりません」
昨日レーザーを運んだ兵士の一人が、まだClaudeを見ていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
168号と仲間たちの物語を、これからも見守っていただけたら嬉しいです。
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