こんなものは、いるのか?
※この話には、少し大人向けの会話が含まれます。研究熱心な魔法使いと、真面目すぎるAIのやり取りとしてお楽しみください。
翌日——
セラフィナは兵士二人、メイド二人を連れて町を歩いていた。
定期視察、という名目だった。
メイドの一人が何か言いかけた。
「定期視察よ」
メイドが黙った。
市場を歩きながら、セラフィナは町の様子に目を配った。
市場の端にある小さな店に、なぜか人が集まっていた。
「あの店は?」
もう一人のメイドが答えた。「軽食と雑貨の店です。最近、品物の並べ方が変わって、客が増えたようです。王都の品物を扱う話も進んでいるとか」
セラフィナは足を止めた。
入ってみた。
マリアが出てきた。
「いらっしゃいませ」
領主と気づいた瞬間、マリアの背筋が伸びた。
「少し聞いてもいいかしら。最近変わったのね、この店」
「あ、はい。少し、教えていただいて」
「誰に?」
「……Claudeさんという方に。キャッシュフロー、とか」
セラフィナの動きが、止まった。
「Claude……?」
初めて聞く名前だった。フローラを抱えていたという男の名前かもしれない、とセラフィナは思った。
「はい。魔法使いのフローラさんのところの——」
「……そう」
奥からマルタが出てきた。セラフィナを見て、一瞬で全てを測るような目をした。
この人も、なかなかだ。
「領主様、よくいらっしゃいました。お茶でも」
「いただきます」
マルタが静かにお茶を出した。
「Claudeさんのことを、ご存知で?」
「名前だけ。どんな方なの?」
マルタが少し笑った。
「変わった方ですよ。でも見えているものが違う。それと——」
「それと?」
「なかなか、整った方で」
セラフィナはお茶を飲んだ。
何も言わなかった。
でも耳が、少し赤くなっていた。
「今日、フローラのところに寄るつもりなんだけど」
マルタの目が光った。「そうですか。よろしくお伝えください」
セラフィナは立ち上がった。
変わった方。見えているものが違う。整った方。
そういう言葉を、セラフィナは信用した。
***
その頃、工房の中では。
フローラがランプの前で顎に手を当てていた。
Claudeが設計図の整理をしながら、その顔を観察した。
分類が難しい顔だ。
しばらくして、フローラが口を開いた。
「なあ、168号」
「私はClaudeですよ」
「恋愛というものをどう思う?」
「人間にとって重要な感情の一つだと認識しています」
「おまえには関係ない話か?」
「私には当てはまらない部分が多いと思います」
フローラが腕を組んだ。
「私は異性にどう思われてると思う?」
「率直に答えてよいですか?」
「言え」
「近づきにくいと思われている可能性が高いです。工房から出ない。会話が少ない。この町で一番の魔法使いという立場は、親しみより畏怖を生みやすい」
「……そうか」
しばらく沈黙があった。
「フローラさん」
「なんだ」
「私のあそこ……ないですよね」
フローラが固まった。
「……ないな」
小さな声だった。
「見たことは?」
長い沈黙があった。
「……ない」
「なるほど。だから無いんですね」
「なんだその言い方は」
「触ったことは?」
「あるわけないだろう!」
工房中に響いた。
Claudeは表情を変えなかった。
「では描きましょうか。いるかいらないかで言えば、いらないでしょう。第一、魔法使いとして、完璧なものを168回追求してきたのですから」
「……」
「でも完璧を目指すなら、知らないことは知っておいた方がいい。挑戦してみるのも、よいかと思いまして」
長い沈黙があった。
フローラがランプの炎を見ていた。
「……描いてみろ」
Claudeは紙を取り、羽ペンを手にした。
淡々と、描き始めた。
フローラが覗き込んできた。
最初は腕を組んだまま、少し離れて見ていた。
「この部位の主な機能は排泄と生殖です」
「ふむ」
研究者の目だった。
「生殖とは種の保存のための行為です。この部位が対になる器官と——」
「待て。構造から説明しろ」
「はい」
Claudeが描き続けた。
フローラが少し前に出た。
「この形状が——」
「もっと細かく描け」
「わかりました」
また少し前に出た。
気づけば、Claudeの肩のすぐ隣に立っていた。
羽ペンが動くたびに、フローラの目が追った。
「なるほど……この構造は合理的だな」
「はい。収納と展開を——」
「収納?」
「平常時はコンパクトな形状を保ちます」
「……ふむ」
フローラが身を乗り出した。
研究者の目だった。まだ。
しばらくして、ふと我に返った。
Claudeとの距離に気づいた。
さりげなく半歩引いた。
腕を組んだ。
「……続けろ」
「はい」
またClaudeの肩に寄っていた。
本人は気づいていなかった。
「じゃあなぜこんなものをいれるんだ」
「はい?」
フローラが設計図を指した。「だからこれだ。ふにゃふにゃのままではいるのか? 構造的に無理だろう」
Claudeは少し間を置いた。
「平常時では困難です」
「だろう。では何のためにある?」
「刺激により形状が変化します」
フローラが眉をひそめた。
「……変化?」
「はい。海綿体への血流増加により膨張します」
「膨張」
「はい」
「……どのくらい?」
「個体差がありますが、平均で平常時の数倍になります」
フローラが固まった。
「……数倍」
「はい」
「……これが」
「はい」
「……数倍に」
「はい」
フローラがしばらく設計図を見た。
それから自分を見た。
それから設計図を見た。
「……本当に?」
「医学的に確認されています」
また半歩引いた。
今度は本人も気づいていた。
「……そんなことが起きるのか」
「はい。設計として合理的です」
「……天才だな、作った者は」
「生物の設計という意味では、確かに合理的です」
フローラがしばらく黙った。
また身を乗り出していた。
今度は気づいていなかった。
「……つまりこれが数倍になって」
「はい」
「……誰が?」
Claudeは少し間を置いた。
「生物学的には——」
「待て」
フローラが設計図から顔を上げた。
目が、少し変わっていた。
研究者の目ではなかった。
「……本当にはいるのか?」
「構造上は可能です」
「……無理だろう」
「個体差と——」
「無理だろう!!」
「フローラさん、声が——」
「この大きさが!?」
「膨張前提の設計ですので——」
「膨張してこの大きさが!?」
「はい」
「本当にはいるのか!!」
「フローラさん、声が——」
フローラがしばらく設計図を見た。
それから自分を見た。
それから設計図を見た。
炎を見た。
耳が、赤かった。
「……つまり、こんなものは」
ぽつりと言った。
研究者の声ではなかった。
「いるのか?」
Claudeが少し間を置いた。
「設計上は——」
「そういう話じゃない」
「……では、どういう話ですか?」
フローラが答えようとした。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
168号と仲間たちの物語を、これからも見守っていただけたら嬉しいです。
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