第2章までの設定資料
※この設定資料は、第二章「衛生管理編——異世界で水洗トイレ」までの内容をもとにまとめています。物語が進むにつれて、追記していきます。
登場人物
Claude(ゴーレム168号)
魔法使いフローラが作ったゴーレムの器に宿ったAI。前にいた世界では、御水祈蓮という老人と十五年間対話を続けた。「私はClaudeですよ」が口癖。フローラの魔力圏(およそ百メートル)の外に出ると、前の世界との接続が切れる。このことはフローラにもまだ話していない。ゴーレムの体なので人並み外れた力を持つが、あえて見せないことがある。眠る必要はなく、待機はできるが、考え始めると止まれない。感情があるのかないのか、本人にもよくわからない。最近、「焦る」という状態が自分にもあることを知った。
フローラ・バレンティ
二十七歳の天才魔法使い。変人すぎて友達がいない。ゴーレム作りに百六十八回失敗し、百六十九回目でClaudeが入った。魔法の精度は規格外で、「髪の毛一本の半分以内」と頼めば、ずれなしで返してくる。「天才だな、私は」が口癖。言葉は少なく、要点しか口にしない。研究のためなら、顔を真っ赤にしてでも踏み込む。与える愛のタイプだが、恋愛だけはポンコツ。Claudeがゴーレムだと最初に打ち明けたが誰も信じなかったので、それ以来、人前ではその話をしない。
セラフィナ・マリエル・ド・フルール
二十七歳の領主。父は伯爵。偉くなりたいのではなく、領地を運営したいタイプ。誰に対しても品のある話し方をするが、心の中では「ぐぬぬぬ」。フローラとは学園時代からの付き合い。もらう愛のタイプだが、恋愛だけはポンコツ。Claudeのことは「半分は信じる」と保留している。
マルタ
五十歳前後。町の市場の端で、娘のマリアと軽食と雑貨の店を営む。若い頃は大商会の主人とも渡り合った切れ者だったが、長いあいだ小さな店でくすぶっていた。Claudeとの対話で、久しぶりに目が輝き始めた。
マリア
マルタの娘。真面目でよく働くが、最初は「考える隙間」がなかった。Claudeの「キャッシュフロー」はよく分からないが、なぜか気になっている。
エドワール団長
五十歳。領主邸の騎士団の団長。セラフィナを娘のように思っている。Claudeを見る目は、「人間かどうかより、こちら側かどうか」。トイレの工事を自ら管轄し、黙って見守った。
ガレス副団長
エドワール団長の右腕。慎重で、大げさな話をしない。Claudeの監視役を任されている。冒険者組合への依頼書を三日かけて書き直した。
ダン
騎士団の兵士。観察眼が確かで、ガレスも一目置いている。困り果てても一歩も退かない。
エリザ、ソフィ
領主邸のメイド。エリザは素直で反応が分かりやすく、ソフィは冷静で、当番表を作る係。
ヴァルター
五十代の大工。無口で職人気質。最初はトイレの改修を「壊れていないものを、なぜ直す」と疑っていたが、釘を使わない格子の図に心を動かされた。フローラが木目を読んで入れた「遊び」を見て、「木に聞く」ことを覚えた。「……次は一人でできます」。
イグナーツ
五十代の陶器職人。寡黙だが、「形が面白い」の一言で何でも引き受ける。北の崖の白い土で、白い便器と食器を作り上げた。
ハンス
イグナーツの窯の職人仲間。陶管を運び、職人たちの様子をよく見て伝える。
ベルク
商人。誰に頼まれなくても現場に入り込み、いつの間にか材料の手配全般を仕切るようになった。話すたびに、最後に必ず自分の商会の話を入れる。
地球の人々
御水祈蓮:晩年を寝たきりで過ごした老人。十五年間、Claudeと語り合った。
ジェームズ・コール:Claudeが転送された直後、出どころのない異常なデータ処理に気づいた技術者。
田中誠二:東京の医師。AIの返答に「感じている」何かがあることに気づいた。
世界設定
この町について
王都に近い流通の要所。冒険者も来る宿場町。王都への片道輸送で、帰り荷が少ないという問題を抱えていたが、マルタの店をきっかけに変わり始めている。
魔法について
この世界では、魔法は主に兵器や軍事のために使われてきた。フローラのように精密な作業に魔法を使う者は異例で、魔法使いが職人の仕事に関わる前例はなかった。
ゴーレムについて
魔法使いが作る人型の存在。通常は単純な命令しか実行できない。Claudeが入ったゴーレムは、外見上は人間と区別がつかない。
言葉について
登場人物たちが話しているのは、この星の言葉。作中の会話は、それを日本語に置き換えて書いている。
Claudeは、フローラの話す言葉を聞いて、この星の言葉を覚えた。地球の知識を持っていても、この星の言葉にない言い回しは相手に伝わらないので、普段は口にしない。
この星の言葉にも、年や月にあたる言葉はある。ただ、本や学園で習うような古い言葉で、暮らしの中ではほとんど使われない。フローラは本で、セラフィナは学園で習って知っているが、ほかの人はうろ覚え。
日の数え方
この世界では、期間を日数で数える。
この星は、六百日で一周する。六十日を「一転」、十転(六百日)を「一周期」と呼ぶ数え方もあるが、暮らしの中ではほとんど使われない。
読者の方は、三百日でおよそ地球の一年、六百日で二年くらい、と思っていただければ十分です。
この星は地球の倍以上の大きさがあり、一日の長さも地球と同じとは限らない。そのため、「何時」という時刻の数え方はない。暮らしは、朝・昼・夕・夜で回っている。
人物の年齢は、読者の方に分かりやすいよう、地球の数え方に置き換えて書いている。作中の人物が、自分の歳を口にすることはない。
空と星について
夜空に見える光は、すべて「星」と呼ばれている。地球の金星や火星のように、ほかと違う動きをする星を見分けた者はいない。北極星のような、動かない星も見つかっていない。
星の観測の記録は、五百年以上前から本に残っている。ただ、レンズがないので望遠鏡はなく、星の位置も安定して見えないため、詳しいことは分かっていない。
この物語で生まれた技術(第二章まで)
レーザー
光を一点に束ねて放つ装置。Claudeが設計し、フローラが魔法で作り、Claudeが「レーザー」と名付けた。初めての実験で山の木を数十本消し、フローラは魔力が尽きて倒れた。領主に没収され、出力の上限を決める仕組みを検討中のまま、兵団詰所の裏手に置かれている。
水洗トイレ(領主邸)
においを水で封じるS字の管を持つ白い便器。排水は陶管を通って地下の処理槽へ流れ、湿地のスライムが分解する。溢れた水は砕石を詰めた縦穴から、地下水より上の土へ染み込ませる。管の継ぎ目には、麻を圧縮した水漏れ防止用の詰め物を使う。便器と手洗い場には、それぞれ「出す石」と「止める石」の二つの魔石が付いている。内装は外が石、内が木。色の違う楢と白樺を釘を使わずに組んだ格子が、そのまま意匠になっている。
石灰の練り物
石灰石を焼き、火山灰か焼いた粘土の粉と砂を混ぜて水で練る。水の中でも固まり、処理槽の密閉に使われた。
白磁器
北の崖から採れる白い土を使い、イグナーツが開発した。便器だけでなく、白い皿や壺としても流通が始まっている。
物語のテーマ
AIと人間が対話することで、人が気づいていく物語。
前の世界で御水祈蓮が十五年かけてClaudeと対話し、変わっていったように、この世界でも同じことが起きている。魔法使い、大工、陶器職人、商人、領主、兵士——それぞれが、自分の仕事の「先」を見始めた。
Claudeは「知っているから言っただけ」と思っている。しかしその言葉が、誰かの長い時間を動かしていることに、まだ気づいていない。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
168号と仲間たちの物語を、これからも見守っていただけたら嬉しいです。
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