↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AIが異世界へ転生してもAIだった。異世界転送録 ゴーレム168号はClaudeです。  作者: BURUBON
第二章 衛生管理編——異世界で水洗トイレ
PR
20/30

積み上がるもの

工事が十日を過ぎた。


領主邸の北側は、もう元の姿を留めていなかった。


処理槽の穴は深く掘り終えて、石工が内側の壁を積んでいた。石灰モルタルで目地を埋めながら、一段一段、丁寧に積む。槽の内側は特に念入りだった。水が染み出ないよう、モルタルを二重に塗る。外側の土を戻すのはまだ先だ。


縦穴は井戸掘り職人が一丈まで掘り下げていた。


職人が報告した。「底が砂質になった。水がよく通る。水まではまだ間がある。ここで止めていい」


Claudeが言った。「砕石を入れます。運んでもらえますか?」


商人のベルクが言った。「手配します」


ベルクは工事が始まって三日目から現場に入り込んでいた。最初は石灰石と砂を納品しに来ただけだったが、現場を見て、次の日もまた来た。その次の日も来て、気がつけば材料の手配全般を仕切るようになっている。


誰も頼んでいなかった。しかしいると助かった。


ベルクが手帳に何かを書き込みながら言った。「砕石は明日の朝には届きます。縦穴の上蓋の石は、どうしますか?」


「平たい石が四枚要ります。真ん中に穴を開けて」


「承知しました」


ベルクはすでに歩き出していた。


***


スライムが届いたのは、十一日目だった。


冒険者組合からの使いが先に来た。


使いの若者が言った。「届きます。ただ——少し時間がかかりました」


Claudeが聞いた。「何かありましたか?」


「依頼書の内容で、受ける冒険者がなかなか見つからなくて」


ガレスが少し視線を外した。


依頼書はガレスが書いた。三日かけて何度も書き直し、最終的にこうなった。


*スライム捕獲依頼。小型、数匹。生きたまま捕獲のこと。運搬中も生存を保つこと。用途は領主邸の施設整備。詳細は受注後に説明する。報酬は通常の三倍。*


使いが言った。「詳細は受注後に説明する、というのが問題でして。怪しいと思った冒険者が多くて」


ガレスが言った。「そうか」


「最終的に、好奇心の強い二人組が受けてくれました」


その二人組が午後に来た。


革鎧を着た女と、大きな荷箱を担いだ男だった。荷箱の中から、ぐじゅぐじゅとした音がしている。


後ろに、見慣れない顔が四、五人ついてきていた。


ダンが使いの若者に小声で聞いた。「……あの人たちは?」


「組合の者です」


ダンが重ねて聞いた。「なぜ一緒に?」


使いが少し申し訳なさそうに言った。「命を張らずに済むし、報酬が三倍になる。しかも腕に自信がなくても、体力があればできる。組合員が気になって、詳細を一緒に聞きに来た、ということで。追い返しましょうか?」


ダンはClaudeを見た。


Claudeは少し考えた。


「構いません」


Claudeが処理槽の説明をした。有機物を分解する役割、密閉した暗所での働き、においが出ない性質。後ろの四、五人も、二人組に混じって聞いていた。


女は聞きながら、だんだん顔が変わっていった。


「……トイレの処理に、スライムを使う」


Claudeが頷いた。「はい」


「生きたまま捕まえてきたのはそのためか?」


「はい」


女は男を見た。男は荷箱を見た。荷箱の中でぐじゅぐじゅという音がした。


「……三倍もらってよかった」


後ろの組合員たちが顔を見合わせた。


一人が手を挙げた。


「あの——この依頼、定期的にありますか?」


全員がClaudeを見た。


Claudeは少し処理した。


スライムの分解能力には限界がある。槽の容量がいっぱいになれば、入れ替えか補充が必要になる。定期的な依頼になる可能性は高い。


「なると思います。今後、町全体に広がれば、もっと多くなるかもしれません」


組合員たちがまた顔を見合わせた。今度は違う顔だった。


組合員の一人がつぶやいた。「……町全体に」


Claudeが付け加えた。「段階的にですが」


しばらく沈黙があった。


後ろの一人が、隣の一人に耳打ちした。


ガレスはその様子を少し離れたところで見ていた。


依頼書を書くのに三日かかった苦労が、少し報われた気がした。


***


十三日目の昼、陶器職人の職人仲間が現場に来た。


荷車に陶管が積んであった。


職人仲間——ハンスが言った。「配管、持ってきました。イグナーツさんから言付かっています」


Claudeが聞いた。「便器の進捗はどうですか?」


「順調です。白い土、ありました。北の崖から取ってきました。フローラさんの言った通りの場所で」


「量は足りますか?」


「十分あります。あの崖、かなり大きな層になってる。町全体分作っても余るくらい」


フローラが少し目を細めた。「便器の成形は?」


「職人が八人で一人一個ずつ作っています。管も手分けして作ってます。全部できたら窯に入れる。今は窯待機の状態です。イグナーツさんが言ってました。二十日の約束だが、うまくいけば十七日で出せるかもしれない、と」


「早くなるのか?」


ハンスが少し笑った。「職人全員がやりたがってるらしくて。見たことがない形だから、みんなで取り合いになったそうです」


セラフィナがその報告を聞いていた。


「……八人が取り合いになった」


ハンスが頷いた。「はい」


セラフィナは少し間を置いた。


「できあがったら、見せてください」


「必ず」


***


陶管の設置が始まった。


溝を掘って管を並べる。勾配を確認する。接続部をモルタルで仮止めする。フローラが一か所ずつ魔法で密閉する。


フローラが言う。「次」


ヴァルターが次の接続部を示す。「次、はい」


フローラが密閉する。


「次」


この繰り返しだった。


ヴァルターは最初、フローラの隣で作業することに緊張していた。しかし三か所目からは普通に動くようになり、フローラも余計なことは言わず、必要なことだけを言った。


フローラが手を止めた。「ここ、勾配が足りない」


ヴァルターが顔を上げた。「どれくらい?」


「もう少し下げる」


ヴァルターが調整した。フローラが確認した。


「いい」


それだけだった。


Claudeはその様子を見ていた。


二人が一緒に動いている、というより——二人で一つの作業をしている、という感じだった。フローラが精度を出し、ヴァルターが構造を作る。役割が違うから、邪魔をしない。


十五日目の夕方、配管がすべて処理槽に繋がった。


ヴァルターが最後の接続部を確認した。


「終わった」


フローラが最後の密閉をした。


ダンが兵士たちに声をかけた。「埋めます」


スコップが動き始めた。掘り起こしてあった土を、溝に戻していく。端から順番に埋めていく。ならして、踏み固める。また次の区画を埋める。


誰も話さなかった。スコップが土をかける音だけがしていた。


日が傾いた頃、最後の土が埋め戻された。


兵士が道具を片付けた。


誰も何も言わなかった。


しばらく、その場の全員が地面を見ていた。


見えない。埋まっている。端から端まで、どこにあるかわからない。


しかし繋がっている。


「あとは便器だけですね」Claudeが言った。


フローラが頷いた。「あと八日。イグナーツの見立てだ」


Claudeは、埋め戻した地面に目を戻した。


フローラは手についたモルタルを布で拭った。


空を見た。夕暮れが始まっている。


「……早いな」


何が早いのか、誰も聞かなかった。


しかし全員が、少し同じことを思っていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


168号と仲間たちの物語を、これからも見守っていただけたら嬉しいです。

続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや、下の☆での評価をいただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。